退職時のデータ削除は違法?~日亜化学工業事件に学ぶ「業務データの所有権」と損害賠償リスク~


「退職するから、自分が作ったデータは消してもいい」
「引き継ぎ不要なデータまで会社のものなのか?」

このような誤解が、数百万円規模の損害賠償につながった判決が、日亜化学工業事件(徳島地裁 令和7年1月16日判決)です。


事件の概要|日亜化学工業事件とは

判決日・裁判所・事件番号

  • 判決日:2025年(令和7年)1月16日
  • 裁判所:徳島地方裁判所
  • 事件番号:令和5年(ワ)第38号

何が起きたのか

日亜化学工業の元研究員が退職にあたり、研究所の共有サーバー、業務で作成した実験データを、
専用プログラムを起動して故意に削除しました。

この削除行為により、データ復旧、再実験、調査・検証作業など、多大なコストが発生。

会社は 「不法行為による損害賠償」として提訴しました。


争点|業務データは誰のものか?

この裁判の最大の争点は、次の一点です。

業務で作成したデータは、個人の成果か?会社の資産か?

元社員側の主張

  • 自分が作成した研究データ
  • 引き継ぎ不要なものも含まれる
  • よって会社の権利ではない

👉 「削除しても問題ない」という主張

会社側の主張

  • 業務として作成
  • 会社のサーバーに保存
  • 研究活動の共有資産

👉 「会社の財産であり削除は違法」


裁判所の判断|故意の削除は「不法行為」

裁判官の判断ポイント

徳島地裁(林憲太朗裁判官)は、次のように明確に判断しました。

業務上作成され、会社の共有サーバーに保存されたデータは会社に帰属する

そのうえで、退職時に故意にプログラムを使って削除した行為は、「会社の利益を侵害する不法行為」と認定。


損害賠償額|約577万円の支払い命令

認定された損害の内容

裁判所が認めた損害は、削除データの調査費用、再構築・再実験の作業費、必要な物品購入費など、現実に発生した復旧コストです。

賠償額

👉 約577万円

「データだから形がない」、「消しただけ」では済まない、現実的で重い金額です。


「バルス」問題|話題性の裏にある本質

この事件では、データ削除に使われたプログラム名が「バルス」だったことも話題になりました。

バルスとは、人気アニメ『天空の城ラピュタ』の滅びの呪文に由来しているものと思われます。

しかし重要なのは名前ではなく、 意図的にデータを消した事実です。

冗談や感情的行動が、法的責任に直結することを示しています。


飲食業でも他人事ではない理由

飲食店に存在する「業務データ」

飲食業でも、次のようなデータがあります。

  • レシピ・原価表
  • シフト表
  • 売上管理データ
  • POSデータ
  • マニュアル
  • 顧客リスト
  • SNS運用データ

👉 すべて「会社の業務データ」

よくある危険なケース

  • 退職者がExcelデータを削除
  • 個人スマホに保存したデータを消去
  • SNSアカウントのログイン情報未返却
  • Googleドライブの共有解除

これらも、状況次第で不法行為・損害賠償の対象になります。


就業規則・誓約書が命運を分ける

本件で会社が有利だった理由

  • 業務として作成
  • 会社サーバー管理
  • データの共有性

👉 会社の管理体制が明確

飲食店で必須の規定例

  • 業務成果物の帰属
  • データの保存・管理
  • 退職時の返却・削除禁止
  • 情報漏えい・毀損時の責任

就業規則・誓約書がなければ、争いは泥沼化します。


退職時トラブルを防ぐための実務対策

経営者が今すぐやるべきこと

✅ 業務データの定義を明確化
✅ クラウド・サーバーの管理権限整理
✅ 退職時チェックリストの作成
✅ 就業規則・誓約書の整備

特に注意すべき退職時対応

  • 退職当日のアクセス権管理
  • パスワード変更
  • データバックアップ
  • 引継書の提出

社会保険労務士からのアドバイス

飲食業は、トラブルの温床になりやすい業界です。

  • 人の入れ替わりが多い
  • IT管理が後回しになりがち
  • 感情的な退職も多い

「うちは小さい店だから大丈夫」では済みません。


データは「会社の財産」

✔ 業務で作成したデータは会社のもの
✔ 故意の削除は不法行為
✔ 数百万円規模の賠償も現実
✔ 就業規則と退職対応が最大の防御


  • 就業規則を見直したい
  • 退職トラブルを未然に防ぎたい
  • 飲食店特有の労務管理を相談したい

飲食業専門の社会保険労務士が対応します
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