腱鞘炎・腰痛は労災認定されにくい?~判例・行政通達から読み解く「業務起因性」の壁と実務対応~


「飲食業の職業病」は、なぜ労災になりにくいのか

飲食業界では、腱鞘炎・腰痛は極めて発生頻度の高い疾病です。
現場感覚としては、包丁を毎日何時間も使う、フライパンを振り続ける、重たい寸胴や食材を持ち上げる、長時間の立ち仕事

「どう考えても仕事が原因では?」
そう感じる経営者・従業員は少なくありません。

しかし、労災実務では👉 腱鞘炎・腰痛は「原則として労災認定されにくい疾病」という扱いがされています。


労災認定の法的枠組み(基礎の再確認)

労災保険法上の原則

労災保険給付の対象となるには、業務遂行性業務起因性の両方が必要です。

    このうち、腱鞘炎・腰痛で最大の争点になるのが 業務起因性(因果関係) です。


    行政通達が示す「認定に慎重な疾病」

    厚生労働省の基本的スタンス

    厚生労働省は、筋骨格系疾患について、以下のような姿勢を取っています。

    「日常生活においても発症し得る疾病については、業務以外の要因を慎重に除外する必要がある」

    つまり、仕事をしていれば誰でもなるでは足りないという考え方です。


    腱鞘炎に関する行政通達の考え方

    腱鞘炎は、手指の反復使用、強い把持動作、長時間の作業によって生じ得ますが、行政実務では、私生活(スマホ操作・家事・育児)、趣味(楽器・スポーツ)、加齢・体質との切り分けが重視されます。

    👉 業務だけが主因であることの立証が必要


    腰痛に関する行政通達

    腰痛については、厚労省は次のように分類しています。

    災害性腰痛(急性)

    • 重量物の持ち上げ
    • 転倒・事故

    👉 比較的労災認定されやすい

    非災害性腰痛(慢性)

    • 長時間の立ち仕事
    • 長年の負担の蓄積

    👉 原則として認定は極めて厳しい


    腱鞘炎に関する裁判例(判例分析)

    判例① 腱鞘炎の労災不支給処分が適法とされた例

    (地裁判決・要旨)

    • 原告:調理補助として包丁作業に従事
    • 主張:長時間の反復作業により腱鞘炎を発症
    • 労基署:不支給

    裁判所の判断

    • 包丁作業は業務上行われていた
    • しかし、私生活での手指使用状況、加齢要因

    👉 業務起因性を肯定するには足りない

    結論:不支給処分は適法


    判例② 腱鞘炎で労災認定が認められた例

    (例外的ケース)

    • 短期間に業務量が急増
    • 明らかに通常を超える反復動作
    • 医師が「業務が主因」と明確に診断

    👉 業務負荷の「異常性」が決め手


    腰痛に関する裁判例

    判例③ 慢性腰痛の不支給処分が維持された例

    • 長年飲食業に従事
    • 立ち仕事、重量物取扱あり
    • 腰痛を発症

    裁判所の判断

    • 業務負荷は一般的な飲食業の範囲
    • 加齢・生活要因を排除できない
    • 発症時期が特定できない

    👉 慢性腰痛は原則として業務起因性が否定されやすい


    判例④ 災害性腰痛として認定された例

    • 業務中に重量物を持ち上げた瞬間に激痛
    • 発症日時・作業内容が明確
    • 医師の診断と一致

    👉 「瞬間性・特定性」が最大のポイント


    飲食業で特に問題になる実務ポイント

    「いつから痛いか分からない」は致命的

    • 労災は発症時期の特定が極めて重要
    • 慢性化すると認定可能性は激減

    医師の診断書の書き方で結果が変わる

    診断書に、「加齢による可能性」、「私生活要因も考えられる」と記載されると、ほぼ不支給になります。

    👉 受診時の業務説明が重要


    事業主がやってはいけない対応

    • 「労災は無理だから健康保険で」
    • 「うちの業界では普通」

    👉 労災隠し=犯罪行為


    飲食業専門社労士としての実務アドバイス

    経営者向け

    • 作業内容・シフトの記録は最大の防御
    • 労災申請=不利ではない
    • 申請抑止はリスクしかない

    従業員向け

    • 痛みは我慢しない
    • 発症時点を必ずメモ
    • 医師には「業務内容」を具体的に説明

    腱鞘炎・腰痛は「理不尽だが現実は厳しい」

    • 腱鞘炎・腰痛は労災認定されにくい疾病
    • ただし、業務負荷の異常性、発症時期の特定がそろえば、認定の可能性はゼロではない

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