履歴書を親会社へ無断提供は違法~東京高裁「目的外使用」で慰謝料10万円~

2026年3月12日、労働新聞で報じられた裁判例が、企業の個人情報管理に警鐘を鳴らしています。

神奈川県の建築設計会社に勤務していた労働者が、会社が本人の同意なく履歴書を親会社へ提供したことについて損害賠償を求めた裁判で、東京高等裁判所は会社に慰謝料10万円の支払いを命じた一審判決を維持しました。

裁判所は、履歴書の利用目的は採用や採用後の人事管理であり、同意なく第三者へ提供した行為は目的外使用に当たると判断しました。

履歴書は採用活動で必ず扱う書類ですが、今回の判決は「履歴書の利用範囲はどこまで認められるのか」という重要な問題を示しています。

特に、・アルバイト採用が多い、履歴書の管理が店舗任せになりやすいという特徴を持つ飲食業界では極めて重要な判例です。


事件の概要

当事者

本件は次の当事者による訴訟です。

労働者:神奈川県の建築設計会社の従業員

会社:建築設計会社

第三者:親会社


問題となった行為

会社は労働者が採用時に提出した履歴書本人の同意なく親会社へ提供しました。

親会社は、その履歴書を別の訴訟の証拠として提出しました。


親会社の別件訴訟

親会社は労働者に対して、債権差押、パソコン未返却などを理由に別件訴訟を提起していました。

その証拠として、履歴書が提出されました。


労働者の主張

労働者は、「履歴書は採用のために提出したもの」、「第三者へ提供することには同意していない」として個人情報の不正利用を理由に損害賠償を求めました。


一審判決

一審(横浜地裁)は、会社の行為について違法と判断しました。

理由は次の通りです。

履歴書の利用目的は、採用判断、採用後の人事管理であり、それ以外の用途に利用することは目的外使用にあたる。

結果として、慰謝料10万円の支払いを命じました。


東京高裁の判断

会社は控訴しましたが、東京高等裁判所は一審判決を維持しました。

裁判所は次のように判断しました。

履歴書は、採用活動および人事管理のための情報である。

したがって、本人の同意なく第三者へ提供する行為は利用目的の範囲を逸脱するとしました。

つまり、履歴書の利用範囲は非常に限定的であるという判断です。


履歴書は個人情報

履歴書には次の情報が含まれています。

・氏名
・住所
・生年月日
・電話番号
・学歴
・職歴
・資格
・顔写真

これらはすべて個人情報です。


個人情報保護法の基本

企業が履歴書を扱う場合、個人情報保護法が適用されます。

重要な条文を解説します。


個人情報保護法15条(利用目的の特定)

個人情報保護法15条

個人情報取扱事業者は、個人情報の利用目的をできる限り特定しなければならない。

つまり企業は、個人情報を何のために使うのかを明確にする必要があります。

採用の場合、通常の目的は「採用選考」、「人事管理」です。


個人情報保護法16条(目的外利用の禁止)

個人情報保護法16条

利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならない。

今回の裁判は、この条文の典型例です。

履歴書の利用目的は、採用、人事管理であり、訴訟証拠として第三者へ提供する行為は目的外利用と判断されました。


個人情報保護法23条(第三者提供)

個人情報保護法23条

本人の同意なく第三者へ提供してはならない

履歴書を、親会社、関連会社、取引先へ提供する場合、本人同意が必要です。


企業が負う責任

個人情報漏洩の場合、企業は次の責任を負います。


民事責任

損害賠償


行政責任

個人情報保護委員会の指導


社会的責任

信用低下
SNS炎上


履歴書トラブルの判例

履歴書に関するトラブルは過去にも多く存在します。


採用差別問題

家族構成、本籍、思想信条などを質問することは問題視されています。


不採用履歴書の放置

履歴書を廃棄せず、放置するケースも問題です。


飲食店で起こりやすい履歴書トラブル

飲食店では、履歴書管理が甘くなりがちです。

よくある事例を紹介します。


履歴書のLINE共有

店長が履歴書を撮影してLINEで共有するケース。

これは情報漏洩です。


グループ店舗回覧

別店舗に「この人どう?」と履歴書を回す。

これも本人同意がないと違法です。


バックヤード放置

履歴書を厨房、レジ、事務所に放置するケース。

これも個人情報管理違反です。


履歴書の正しい管理方法

企業は次の対応が必要です。


利用目的の明示

採用時に利用目的を説明します。


第三者提供の同意

グループ企業で共有する場合は同意取得が必要です。


管理責任者

履歴書は店長または本部が管理します。


保管方法

・鍵付きキャビネット
・データ管理


破棄ルール

不採用者の履歴書は一定期間後、シュレッダー処理します。


飲食業の実務ルール

おすすめの履歴書管理ルールです。

履歴書管理規程

・履歴書は店長のみ管理
・スマホ撮影禁止
・LINE共有禁止
・不採用履歴書は1ヶ月後破棄
・第三者提供は本人同意

これだけでも情報漏洩リスクは大幅に減ります。


社労士としてのアドバイス

飲食店では採用が多く、履歴書管理が軽視されがちです。

しかし、個人情報トラブルは、「損害賠償」、「信用低下」、「炎上」につながります。

履歴書管理も重要な労務管理です。


まとめ

今回の判決のポイントです。

履歴書は個人情報
利用目的は採用・人事管理
同意ない第三者提供は違法
企業は個人情報管理義務

飲食店でも、履歴書管理ルールを作ることが重要です。


飲食店では、アルバイト採用、外国人雇用、労働トラブルなど多くの問題が発生します。

当事務所では飲食業専門の社会保険労務士として以下のサポートしています。

・採用ルール整備
・就業規則作成
・労務トラブル予防

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