会社指定以外で健康診断を受診した場合の法的整理と実務対応~検診結果・検査項目・費用負担・労働時間・交通費を徹底解説~
目次
なぜ問題になるのか
飲食業では、健康診断に関するトラブルが増えています。
特に多いのが、「かかりつけ医で受けたい」、「人間ドックに変更した」、「別日に受診した」、「費用を全額請求された」というケースです。
背景には、シフト制勤務、パート・アルバイト多数、ダブルワーク、外国人労働者在籍、店舗分散型経営という飲食業特有の事情があります。
健康診断は単なる福利厚生ではありません。
法的義務です。
根拠は、労働安全衛生法第66条
この条文により、事業者は労働者に対して健康診断を実施しなければなりません。
しかし、「実施義務」とは何を意味するのか。
ここを誤解すると、不要な費用負担や未払い賃金問題に発展します。
健康診断制度の法体系整理
実施義務の本質
事業者の義務は「健康診断を実施すること」であって、「労働者が選択した医療機関の費用を無制限に負担すること」ではありません。
実施とは、医療機関の確保、法定項目の実施、受診機会の提供、費用負担を含む「制度としての実施」を意味します。
法定健康診断項目
定期健康診断の項目は、労働安全衛生規則第44条 に規定されています。
主な項目:
- 既往歴・業務歴
- 自覚症状・他覚症状
- 身長・体重・腹囲
- 視力・聴力
- 胸部X線
- 血圧
- 貧血
- 肝機能
- 血中脂質
- 血糖
- 尿検査
- 心電図(年齢等条件あり)
これらが欠けていれば、会社の義務違反になります。
検診結果の提出義務
提出を求められる法的根拠
会社には安全配慮義務があります。
労働契約法第5条
健康状態を把握できなければ、安全配慮義務を果たせません。
したがって、指定外で受診しても、結果の写し提出は義務化可能です。
個人情報との関係
健康診断結果は要配慮個人情報です。
個人情報保護法上、適切な管理が必要です。
実務対応:
- 原本提出ではなく写し提出
- 人事責任者のみ閲覧
- 店長が安易に閲覧しない
検査項目の確認義務
会社側のチェック責任
従業員が人間ドックを受けた場合でも、「法定項目が含まれているか」を確認するのは会社の責任です。
不足があれば、再受診を命じることが可能です。
人間ドックとの関係
人間ドックは法定健診とは別制度です。
含まれていないケース:
- 心電図未実施
- 聴力簡易検査のみ
- 腹囲未測定
必ずチェックリストを作成してください。
費用負担の法的整理
ここが最大の論点です。
原則論
会社が、指定医療機関を設定し法定項目を確保、受診機会を提供している場合、従業員が自己都合で別受診した費用について、
会社に負担義務はありません。
理由:
事業者の義務は「実施」であり、「自由選択型負担義務」ではないからです。
例外
次の場合は負担義務が問題になります。
① 指定医療機関が実質的に受診困難
② 会社が「どこで受けてもよい」としている
③ 指定日が著しく不合理
裁判リスクの考え方
争点になるのは、実施体制が合理的か、受診機会が確保されていたかです。
ここが整っていれば、会社勝訴可能性は高いと考えられます。
労働時間性
基本的考え方
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間。
会社指定受診 → 指揮命令下
自己都合変更 → 原則指揮命令外
行政解釈
通達上も、事業者が指定し、受診を命じた場合は労働時間とされています。
一方、労働者が任意に変更した場合まで労働時間とする義務はありません。
交通費の整理
法律上の明文規定はありません。
実務上は、指定受診 → 支給、自己都合受診 → 不支給可とするのが一般的です。
飲食業特有の注意点
短時間労働者
週30時間未満は義務対象外の場合があります。
外国人労働者
母国での受診結果持参ケースあり
→ 日本の法定項目を満たすか確認必須
複数店舗経営
店舗ごとに対応が違うと不公平感が発生します。
就業規則・規程例
(実務で使える簡易例)
第◯条
当社は法令に基づき定期健康診断を実施する。
従業員は会社が指定する医療機関で受診しなければならない。
指定医療機関以外で受診する場合は、事前承認を要する。
その場合の費用は原則として自己負担とする。
労基署対応を想定した整理
質問されるポイント:
- 法定項目確認しているか
- 受診率はどうか
- 費用負担基準は明確か
ここを整理していれば問題ありません。
最終まとめ
指定外受診の整理:
✔ 検診結果 → 提出義務あり
✔ 検査項目 → 会社が確認義務
✔ 費用負担 → 原則会社負担義務なし
✔ 労働時間 → 原則該当せず
✔ 交通費 → 原則不支給可
ポイントは、「実施義務」と「自己都合受診」を分けて考えること。
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