外国人が出国するときに請求できる「脱退一時金」とは~国民年金・厚生年金の仕組み、計算方法、押さえるべき実務ポイント~

飲食業界では、慢性的な人手不足を背景に、 特定技能外国人、技能実習生、留学生アルバイトなど、 外国人労働者の存在は欠かせないものとなっています。

一方で、「帰国すると年金はどうなるのか」、「払った年金は戻ってくるのか」、「会社が何か手続きをしないといけないのか」といった質問を、退職・帰国のタイミングで受けることが非常に多くなっています。

このときに正しく説明できないと、会社への不信感、SNSでの悪評、不当なクレームにつながりかねません。


脱退一時金制度の趣旨と法的な位置づけ

なぜ脱退一時金という制度があるのか

日本の公的年金制度は、 原則として10年以上の加入期間がなければ老齢年金を受給できません。

多くの外国人労働者は、数年で帰国する、永住予定ではないというケースが大半です。

そのままでは、 年金保険料が完全に掛け捨てになってしまいます。

この不合理を是正するために設けられているのが、 脱退一時金制度です。


脱退一時金の根拠法令

国民年金法、厚生年金保険法に基づく制度であり、 「特別な給付」ではなく、 法律に基づく正式な年金給付です。


対象となる年金制度の詳細

国民年金が対象となる外国人

以下のようなケースです。

  • 留学生(資格外活動)
  • 個人事業主
  • 厚生年金の加入要件を満たさない短時間アルバイト

飲食業では、 「週20時間未満・学生アルバイト」などが該当します。


厚生年金が対象となる外国人

飲食店で最も多いのがこちらです。

  • 正社員
  • 社会保険加入要件を満たすパート・アルバイト
  • 特定技能外国人
  • 技能実習生

👉 会社と本人が保険料を折半で負担している年金が厚生年金です。


脱退一時金を受け取るための要件

以下のすべてを満たす必要があります。

1.日本国籍を有していないこと
2.日本国内に住所を有していないこと(住民票転出)
3.国民年金または厚生年金の被保険者期間があること
4.老齢年金・障害年金などの受給権を有していないこと
5.被保険者資格喪失日から 2年以内 に請求すること

⚠️ 特に重要なのが「2年以内」という期限です。


脱退一時金の計算方法と上限

国民年金の脱退一時金

保険料を納めた月数に応じて定額で決まります。

  • 6〜11か月
  • 12〜17か月
  • 18〜23か月
  • 24〜29か月
  • 30〜35か月
  • 36か月以上(上限)

👉 36か月で頭打ちになる点に注意が必要です。


厚生年金の脱退一時金

厚生年金は次の要素で決まります。

  • 平均標準報酬額
  • 被保険者期間
  • 支給率

2021年の制度改正により、支給対象期間の上限は60か月(5年)となっています。

👉 月給25万円前後・5年加入の場合、 数十万円規模になることも珍しくありません。


請求手続きの具体的な流れ

STEP1|退職・出国前の準備

  • 住民票の転出届
  • 在留カード返納
  • 年金番号の確認

STEP2|出国後の手続き

  • 脱退一時金請求書を入手
  • 住民票除票のコピー
  • パスポートコピー
  • 銀行口座証明(海外口座)

STEP3|日本年金機構へ郵送

原則として、 👉 海外から本人が直接郵送します。


飲食店が必ず押さえるべき実務ポイント

会社が請求する制度ではない

脱退一時金は、 事業主申請ではありません。

会社は「説明」と「資格喪失手続き」を行うのみです。


資格喪失届の遅れが重大トラブルに

  • 健康保険・厚生年金 被保険者資格喪失届

これが遅れると、脱退一時金が請求できない、年金事務所からの照会につながります。


実際に多いトラブル事例

  • 「全部返ってくると思っていた」
  • 「会社が手続きをしてくれると思っていた」
  • 「2年過ぎて請求できなかった」

👉 事前説明の有無でトラブル発生率は大きく変わります。


社会保障協定と脱退一時金の関係

日本と社会保障協定を結んでいる国の場合、日本の年金加入期間、母国の年金加入期間を通算できることがあります。

⚠️ 脱退一時金を請求すると、その期間は消滅します。


✔ 外国人雇用は「退職時対応」までがセット
✔ 年金説明はトラブル予防策
✔ 社会保険手続きの正確性が経営リスクを下げる


脱退一時金をめぐるQ&A

Q1.脱退一時金は「全額」返ってくるのですか?

いいえ。
支払った保険料の全額が返ってくる制度ではありません。
あくまで法律で定められた計算式に基づく「一部返還」です。


Q2.会社が説明しなかった場合、法的責任はありますか?

原則として、脱退一時金は本人請求の制度であり、 事業主に説明義務が法律上明記されているわけではありません。
ただし、実務上は説明不足がトラブル・紛争に発展するケースが多く、 飲食業では「リスク管理」として説明することが強く推奨されます。


Q3.技能実習から特定技能に移行した場合、加入期間はどうなりますか?

国民年金・厚生年金の被保険者期間は通算されます。
ただし、脱退一時金請求時の上限(60か月)には注意が必要です。


Q4.帰国後に再来日した場合はどうなりますか?

脱退一時金を請求していなければ、 過去の加入期間はそのまま残ります。
一方、脱退一時金を請求した期間は「消滅」し、通算されません。


モデルケース別 脱退一時金シミュレーション

ケース① 留学生アルバイト(国民年金1年)

→ 数万円程度

ケース② 特定技能(厚生年金3年・月給23万円)

→ 約20〜30万円前後

ケース③ 正社員(厚生年金5年・月給28万円)

→ 40万円超となる例も

※あくまで目安であり、実際は個別計算が必要です。


脱退一時金と税金の関係

脱退一時金には、 一律20.42%の所得税が源泉徴収されます。

その後、納税管理人を選任、確定申告を行うことで、 一部還付を受けられる可能性があります。



脱退一時金をめぐる行政実務の実情

  • 書類不備による差戻し
  • 海外口座名義違い
  • パスポート番号不一致

飲食業における外国人雇用と年金リスク管理

✔ 採用時に社会保険説明
✔ 退職時に脱退一時金説明
✔ 書面・マニュアル化

これだけで、 トラブル発生率は大幅に下がります。


よくある誤解

  • 全額返ってくる
  • 会社がやる
  • 自動的にもらえる
  • 帰国前に申請できる

すべて誤りです。


飲食業専門社労士からのアドバイス

外国人雇用は、 「雇ったら終わり」ではなく 「辞めるときまで」がセットです。

脱退一時金の正しい理解は、 経営者を守り、スタッフとの信頼関係を守ります。


  • 外国人雇用の社会保険・年金手続
  • 飲食業に特化した労務顧問

「この説明で大丈夫?」 「外国人雇用を安心して続けたい」という方は、 お問い合わせフォーム から、お気軽にご相談ください。


※本記事は、2026年1月時点の法令・実務に基づいて作成しています。