長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度監督指導結果を公表
2025年10月31日、東京労働局が「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度 監督指導結果」を公表しました。
その内容は、飲食業をはじめとした多くの事業主にとって、決して無関係とは言えません。
今年度の監督結果では、4割近い事業場で違法残業・長時間労働が発生していたということになります。
- 4,138事業場に監督指導を実施
- 3,093事業場(74.7%)で法令違反を確認
- 1,545事業場(37.3%)で違法な時間外労働を確認
- 732事業場で「月80時間」を超える長時間労働を確認
特に飲食業では、「人手不足」、「営業時間の長さ」、「繁忙期の業務集中」、「管理職の長時間労働慣行」などの要因が積み重なり、長時間労働が慢性化しやすい環境にあります。
本記事では、飲食業専門の社会保険労務士の視点から、今回の監督指導結果を徹底解説し、飲食店が具体的に何を改善すべきかを詳しくお伝えします。
目次
令和6年度「長時間労働」監督指導結果の全体像
監督指導の対象とは?
今回の監督は、次の情報をもとに「長時間労働が疑われる事業場」が重点的に選ばれています。
- 月80時間超の残業が疑われる情報
- 労災請求(過労死ライン)の発生
- 申告による情報
- 外部報道や統計に基づくリスク把握
飲食業は、常に長時間労働リスクが高い業界であるため監督対象になりやすい業種です。
主な法違反内容
■ 違法な時間外労働:1,545事業場(37.3%)
- 法定上限(36協定)を超える残業
- 特別条項の超過
- 月100時間超の残業(442事業場)
- 月150時間超(104事業場)
- 月200時間超(23事業場)
■ 賃金不払残業(いわゆるサービス残業):296事業場(7.2%)
飲食業でも非常に多い違反です。
タイムカードと勤怠システムの乖離、固定残業代の誤設計、休憩未取得などが典型例。
■ 健康障害防止措置の未実施:887事業場(21.4%)
- 月80時間超の社員への面接指導未実施
- 衛生委員会での協議不足
- ストレスチェックの未実施 など。
「労働時間の把握が不適正」:767事業場(18.5%)
労働時間管理に使用されていた方法は以下のとおり:
| 労働時間管理方法 | 事業場数 |
|---|---|
| タイムカード | 1,118 |
| ICカード/IDカード | 984 |
| PC使用時間記録 | 333 |
| 使用者の現認 | 183 |
| 自己申告制 | 1,364 |
自己申告制が最も多い(1,364事業場)というのが大きな問題です。
飲食業でも「店舗責任者に任せる」「紙の勤務簿」のような運用が残りやすく、改善が急務です。
飲食業で発生した「違法な長時間労働」の具体的事例
監督結果には実際の事例が掲載されています。ここでは特に飲食店で起きた典型例を紹介します。
飲食店での主な問題点(事例1)
労働者15名が、最大で227時間もの時間外・休日労働を行っていた。
● 違反内容
- 36協定を超える残業
- 法定休憩(1時間)を与えていない
- 休日労働の上限超過
- 月100時間以上の長時間労働
- 労働時間の実態把握不足
● 改善のための取組
- ラストオーダーの繰り上げ
- 営業時間短縮
- 定休日の増加
- 人員増強・時差シフトの導入
- 休憩取得ルールの徹底(インカムを外す等)
結果:月40時間程度まで時間外労働が大幅に減少。
→ 飲食店でも十分に改善可能であることが分かります。
飲食業で多い法令違反の典型パターン
飲食店の監督指導で特に多いのが以下の5点です。
① 36協定の誤り・未締結
- 36協定を出していない
- 特別条項の内容が実態に合っていない
- 年6回超の特別条項発動
- 管理監督者(店長)に不適切な扱い
特に 飲食店の店長は管理監督者に該当しないことが多い ため、労働時間管理が必要です。
② 休憩を与えていない(労基法34条)
- 休憩中も電話対応
- インカムを付けたまま
- 調理場での待機
- 客入り次第で呼び戻し
これらは休憩とは認められません。
③ サービス残業の発生
飲食業に極めて多い
- 着替え時間
- 開店前準備
- 閉店後の片付け
- 勤怠入力のための作業
- 休憩中の指示対応
すべて労働時間となり、未払い賃金の原因になります。
④ 労働時間の自己申告制の形骸化
- 実態より短く申告
- 店長の忖度
- 過少申告が常態化
- 打刻と実労働時間の乖離
監督署はここを非常に厳しく見ます。
⑤ 面接指導の未実施
月80時間超の社員への医師面接は義務です。
飲食業では「知らなかった」という理由が特に多いため要注意。
長時間労働が飲食店にもたらすリスク
長時間労働の放置は、以下のようなリスクを招きます。
労災認定(過労死ライン)
- 月80時間超:健康障害リスク上昇
- 月100時間超:労災認定の可能性大
飲食業の労災認定増加は、全国的な傾向になっています。
未払い残業請求(2〜3年遡り)
飲食業で典型的な請求金額
- 店長クラス:150〜500万円
- スタッフ複数名:500〜2,000万円
- グループ店:数千万円規模
送検・企業名公表
年間の送検事例でも飲食業は上位です。
長時間労働は法違反として新聞・ニュースに掲載されやすく、信用失墜につながります。
退職・採用難の加速
「過重労働の店」という噂は、求人にも大きく影響します。
飲食店はただでさえ採用が困難な業界です。
飲食店が今すぐ取り組むべき長時間労働対策
監督署が改善指導の際に求める内容は次のとおりです。
① 労働時間の適正把握(ガイドラインの遵守)
- 打刻と実労働時間の照合
- 休憩の実態確認
- 自己申告制の運用見直し
- PCログ、POSログの活用
- 監督者による管理体制の構築
飲食店では「店舗任せ運用」が特に危険です。
② シフトの適正化
- 勤務間インターバル
- 週休2日制の確保
- イベント・繁忙期の事前計画
- 店長の業務分散
- パート・アルバイト活用の最適化
③ 36協定の見直し
- 特別条項の適正化
- 管理監督者の範囲見直し
- 年6回以内の発動管理
- 過重労働者のアラート設定
④ 健康障害防止措置
- 月80時間超の社員への面接指導
- ストレスチェック
- 衛生委員会での審議
- 健康診断の実施・フォロー
⑤ 働き方改革推進支援助成金の活用
- 労働時間短縮・年休促進支援コース
- 勤務間インターバル導入コース
労働時間改善に助成金を使えるケースは多く、実質負担を抑えながら働き方改革が可能です。
当事務所が実際に行っている「飲食店の労務改善サポート」
飲食業専門の社会保険労務士として、以下のような支援を提供しています。
労働時間管理体制の構築
- 打刻ルールの設計
- 店舗管理者教育
- 勤怠システム導入の伴走支援
- 業務棚卸し・生産性向上アドバイス
36協定・就業規則の最適化
飲食業の実情に合わせて設計します。
- 変形労働時間制
- 特別条項
- 管理監督者の定義
長時間労働是正プランの策定
- シフトの組み直し
- 人員配置分析
- 業務分散
- 店長業務の棚卸し
- 営業時間の見直し提案
ハラスメント・メンタルヘルス対策
- 衛生委員会の設置支援
- ストレスチェック
- 面接指導の仕組みづくり
助成金申請サポート
働き方改革関連の助成金は飲食店で使いやすく、最大200万円以上の支給事例もあります。
まとめ
今回の監督指導結果は、飲食業における長時間労働が依然として深刻であることを示しています。
しかし、適切な労務管理と体制の再設計により、長時間労働は必ず改善できます。
実際に東京労働局公表の事例でも、「営業体制の見直し」、「シフトの最適化」、「人員配置の見直し」によって大幅な残業削減が実現しています。
飲食業の長時間労働や労務管理にお悩みの方へ
長時間労働を放置すると、事業リスクが一気に高まります。
- 労働基準監督署の立入調査
- 未払い残業請求
- 労災認定(過労死ライン)
- 送検・企業名公表
当事務所では、飲食業に特化して労働時間管理・36協定・助成金活用・スタッフ定着までワンストップで支援しています。
📩 ご相談はこちら
- 長時間労働を是正したい
- 労働基準監督署から連絡が来た
- 店長の残業が月100時間を超えている
- 未払い残業にならない仕組みを作りたい
- 労働時間管理を整えたい
どんな小さな相談でも大丈夫です。
飲食業の労務管理で悩んだときは、お電話や お問い合わせフォーム から、お気軽にご相談ください。
初回相談はオンライン・無料対応しています。


