飲食店でよくある勘違い~食品衛生責任者・衛生管理者・衛生推進者の違い~
飲食店の衛生管理に関するご相談の中で、勘違いがあるのは、「食品衛生責任者」「衛生管理者」「衛生推進者」の違いが分からないというものです。
どの資格が必要なのか、どこまでが義務なのか、複数店舗の場合の配置はどうするのか、そして 食品衛生法と労働安全衛生法のどちらに紐づくのか が混同されがちです。
飲食業の現場では、次のようなケースを目にします。
- 店長が食品衛生責任者を持っていれば衛生管理者も兼ねていると思っていた
- 厨房責任者に食品衛生責任者の講習だけ受けさせていた
- アルバイトだけの深夜営業で「食品衛生責任者不在」の状態になっていた
- 事業場規模が50名を超えているのに「衛生推進者」すら選任していなかった
目次
食品衛生責任者とは何か(食品衛生法)
食品衛生責任者の法的根拠
食品衛生責任者は 食品衛生法に基づき、都道府県条例で義務付けられる ものです。
飲食店、喫茶店、菓子製造、仕出し、給食、食肉販売等、ほぼすべての食品を扱う営業において、必ず1名の選任が必要 になります。
選任要件
原則として次の方が資格を得られます。
- 調理師
- 栄養士
- 食品衛生管理者
- 都道府県実施の「食品衛生責任者講習」修了者
特に飲食店では 6時間〜7時間の講習を受ければ取得できる ため、店長・料理長が受講するケースが一般的です。
主な役割
- 店舗の衛生管理計画(HACCP)の策定と運用
- 従業員への衛生指導
- 食中毒予防の措置
- 施設や設備の衛生状態の確認
- 行政の監査・指導への対応
飲食店における 日々の衛生管理の中心人物 であると言えます。
よくある勘違い(飲食店で最も多い)
❌ 「複数店舗を1人の責任者で兼務できる」
→ 原則として 各店舗に1名ずつ が必要。
❌ 「衛生管理者(労働安全衛生法)と同じ」
→ 全く別物。
食品衛生責任者は「食品衛生法」。
衛生管理者・衛生推進者は「労働安全衛生法」。
衛生管理者とは何か(労働安全衛生法)
飲食店で誤解が非常に多いのが、ここです。
食品衛生責任者とは違い、衛生管理者は労働安全衛生法に基づく “労働者の安全と健康管理” の担当者 です。
飲食店は「サービス業」であり、労働安全衛生法の対象になります。
衛生管理者の選任が必要になる基準
常時50人以上の労働者を使用する事業場 では
衛生管理者を選任する義務があります。
ポイント
- 会社単位ではなく 事業場単位
- 正社員だけでなく アルバイト・パートも人数に含まれる
- 延べ人数ではなく 同時使用人数(常時使用)
飲食業では、「社員8名、アルバイト45名」などの構成も多いため、知らぬ間に要件を満たしているケースが多く見られます。
衛生管理者の役割
- 職場の衛生状況の点検
- 労働者の健康障害防止措置
- 作業環境管理
- 労働衛生教育の実施
- 産業医との連携
厨房の暑熱対策、火傷・切創、深夜労働の健康措置など、飲食店の現場には衛生管理者が関与すべきテーマが多くあります。
よくある勘違い
❌ 「飲食店には衛生管理者は不要」
→ 50名以上で必須。
チェーン店や繁忙店は該当する例が多い。
❌ 「衛生管理者講習は食品衛生講習と同じ」
→ 全く違う。
衛生管理者は 国家資格(試験合格が必要)。
❌ 「衛生管理者がいなくても罰則はない」
→ 選任義務違反で 50万円以下の罰金。
衛生推進者とは何か(労働安全衛生法)
● 衛生管理者との違い
従業員が50名未満の事業場では、衛生管理者の選任義務はありませんが、10名以上50名未満の事業場では 衛生推進者を選任が義務付けられています。
飲食店の99%はこのカテゴリーです。
● 役割
- 衛生委員会の代替としての衛生管理活動
- 労働者の健康確保
- 作業環境の改善提案
- 労災防止の取り組み
衛生推進者は「努力義務」ですが、行政調査(労働基準監督署)ではほぼ必ず聞かれます。
飲食店で発生しやすい“勘違い”総まとめ
以下は実際に多店舗展開の飲食企業でよくある誤解です。
● 勘違い①
食品衛生責任者=衛生管理者だと思っている
→ 完全に別物。所轄も違う。
● 勘違い②
50名以上いるのに衛生管理者を選任していない
→ 労基署の重点調査事項。
● 勘違い③
50名未満だから衛生管理者も衛生推進者も不要
→ 10名以上であれば衛生推進者を選任。
飲食店における正しい運用モデル
1店舗あたりの配置イメージ
| 区分 | 人数基準 | 必要なもの |
|---|---|---|
| アルバイト含め「常時50名以上」 | 50名以上 | 食品衛生責任者+衛生管理者 |
| 50名未満 | 10名以上50名未満 | 食品衛生責任者+衛生推進者 |
複数店舗を持つ企業が行うべきこと
飲食企業のご相談で多いのが、「どの店舗を“事業場”として扱うべきか」という点です。
● チェーン店は“店舗ごと”の判断
キッチンスペース・スタッフ配置が独立していれば一般的には1店舗=1事業場。
● 本部との兼務
本部社員が兼務で衛生管理者になる場合もありますが、臨店頻度・実効性の観点から労基署が問題視するケースも増えています。
行政調査(保健所・労基署)でよく指摘されるポイント
【保健所】
- 研修記録・衛生管理計画の形骸化
- 温度管理記録がついていない
【労働基準監督署】
- 衛生管理者未選任(50人以上)
- 衛生推進者未選任(10人以上50人未満)
- 衛生委員会の未実施
- 面接指導・ストレスチェックの未対応
飲食店は「労務リスク+衛生リスク」が両方存在するため、指導が入ると改善負荷が非常に大きくなります。
当事務所からのアドバイス
① 食品衛生と労務衛生は“完全に分けて管理する”
食品衛生責任者(食品衛生法)
衛生管理者・衛生推進者(労働安全衛生法)
混同すると、どちらも不備になります。
② 店長だけに依存しない運営体制
食品衛生責任者が不在になる時間帯を避けるため2名以上の資格取得を推奨 します。
③ 多店舗展開は「各店舗の常時使用人数」を必ず把握
衛生管理者が必要になるのに気付かない企業が非常に多いです。
④ 行政調査の前に労務監査を受けるメリット
- 文書整備
- 就業管理の整合性確認
- 衛生管理体制の整理
まとめ
| 資格 | 法律 | 基準 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| 食品衛生責任者 | 食品衛生法 | 店舗ごとに必須 | 食品衛生・HACCP管理 |
| 衛生管理者 | 労働安全衛生法 | 常時50名以上で必須 | 労働者の健康・職場衛生 |
| 衛生推進者 | 努力義務 | 常時10名以上50名未満 | 小規模店の衛生管理 |
飲食業は「食の安全」と「労働者の安全」が同時に求められる業界です。
どちらか一方の管理が不足すると、重大なトラブルを招く可能性があります。
- 衛生管理者の選任判断
- 店舗ごとの常時使用人数の整理
- 労務監査・安全衛生監査
- 行政調査(労基署・保健所)対策
を含むコンサルティングを行っています。
複数店舗を運営されている企業様、スタッフ数が増えて基準に該当しそうな企業様は、お電話や お問い合わせフォーム から、お気軽にご相談ください。
初回相談はオンライン・無料対応しています。


