傷病手当金を受給中に出産したらどうなる?~出産手当金・育児休業給付金との関係を条文・通達・裁判例~


妊娠・出産と「休職」が重なった場合、健康保険法と雇用保険法が複雑に絡み合います。

特に飲食業では、つわりや切迫流産による長期休職、精神疾患による傷病手当金受給中の妊娠、非正規雇用・有期契約、雇用保険加入の有無といった事情が重なり、給付可否の判断を誤るケースが非常に多い分野です。


制度の全体像

病気・ケガ
   ↓
傷病手当金(健康保険)
   ↓
産前42日
   ↓
出産手当金(健康保険)
   ↓
産後56日
   ↓
育児休業給付金(雇用保険)

※同一期間の重複支給は原則不可


傷病手当金の法的構造

■ 健康保険法第99条
業務外傷病により労務不能で報酬を受けられない場合支給

■ 支給要件

  1. 業務外傷病
  2. 労務不能
  3. 待期3日完成
  4. 報酬なし

■ 支給額
標準報酬日額の2/3

■ 支給期間
通算1年6か月


労務不能の判断基準(裁判例)

最高裁昭和57年7月15日判決
「客観的に就労不能と認められる状態」

→ 医師の診断書のみでなく、実態判断。


出産手当金の優先関係

■ 健康保険法第102条

産前42日(多胎98日)
産後56日

■ 第102条3項

同一期間に傷病手当金と重なる場合
→ 出産手当金を優先支給


通達解釈

「出産手当金は母体保護の趣旨から優先する」

つまり、産前期間に入った瞬間、傷病手当金は停止。


具体的事例検討

ケース1

うつ病で傷病手当金受給中
→ 産前42日前到来

→ その日から出産手当金


ケース2

切迫早産で入院
→ 予定日より前に出産

→ 実出産日前42日から出産手当金


ケース3

出産直前まで傷病手当金

→ 出産日前日まで傷病手当金
→ 出産日から出産手当金


育児休業給付金の法的構造

■ 雇用保険法第61条の4

支給要件:

  1. 育児休業取得
  2. 雇用保険被保険者
  3. 2年間に11日以上の月12か月

令和3年改正

80時間以上でも可。


傷病手当金受給中だった場合の論点

最大の問題:

「11日以上の月」不足

傷病手当金は賃金ではないため、賃金支払基礎日数に含まれない。


4年遡り特例

■ 雇用保険法施行規則第101条の13

疾病・出産等で賃金支払いがなかった期間がある場合、最大4年まで遡及可能。

実務では、これを知らずに不支給判断する例が散見される。


退職との関係

■ 傷病手当金
→ 条件を満たせば退職後継続給付可

■ 出産手当金
→ 原則在職中のみ

■ 育児休業給付金
→ 在職前提(退職後不可)

ここは最重要。


有期契約の論点

育児休業給付金支給要件:

子が1歳6か月になるまでに契約満了しない見込み。

飲食パートの1年契約は、更新可能性明示が重要。


飲食業特有のリスク分析

  1. 雇用保険未加入
  2. 週20時間未満契約
  3. シフト減少
  4. 扶養内調整
  5. 休職規定未整備

裁判例にみる妊娠・出産と不利益取扱い

■ 男女雇用機会均等法第9条

妊娠・出産を理由とする不利益取扱い禁止

最高裁平成26年10月23日
(広島中央保健生協事件)

妊娠を理由とする降格は原則無効。


社会保険料免除の効果

育休中:

・健康保険料免除
・厚生年金保険料免除

将来の年金額に影響なし。

実質的な可処分所得は高い。


給付総額シミュレーション

月給20万円ケース:

傷病手当金(6か月)約80万円
出産手当金 約30万円
育児休業給付金 約150万円

合計200万円超も可能。


会社側実務チェックリスト

□ 社保加入確認
□ 雇用保険加入確認
□ 11日カウント
□ 4年遡り確認
□ 契約更新見込み整理
□ 解雇回避


実務上の誤解

❌ 傷病手当金中は育休不可
→ 誤り

❌ パートは対象外
→ 誤り

❌ 退職後も育休給付可能
→ 誤り


行政実務のポイント

ハローワークは賃金台帳・出勤簿で判断。

形式ではなく実態。


企業リスク

誤案内により受給不能
→ 損害賠償リスクも理論上あり。


まとめ

✔ 出産手当金が優先
✔ 育児休業給付金は別制度
✔ 11日×12か月が最大の壁
✔ 疾病は4年遡り
✔ 退職判断は慎重に

給付診断、規程整備、トラブル防止、行政対応行っています。

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