解決金は賃金に当たらない?労働審判後の「解決金」と控除・相殺の可否【東京地裁2026年1月29日判決】


労働審判や裁判外紛争解決手続(ADR)を経て、「解決金」を支払うケースは、飲食業でも決して珍しくありません。

特に未払い賃金をめぐる紛争では、解決金は賃金なのか?、所得税や社会保険料を控除してよいのか?相殺処理は可能なのか?といった実務上の疑問が頻発します。

こうした点について、東京地裁が重要な判断を示しました(2026年1月29日 労働新聞報道)。


事件の概要

本件は、未払い賃金をめぐる労働審判において、調停が成立し、調停調書に「解決金」の支払いが定められた事案です。

その後、会社側は次のように主張しました。

  • 解決金の実質は賃金である
  • 所得税等を控除した金額をすでに支払っている
  • よって相殺により全額支払い済みである

これに対し、労働者側は、解決金は賃金ではなく、控除も相殺もできないと反論し、裁判となりました。


東京地裁の判断ポイント

東京地裁は、会社側の主張を退け、次のように判断しました。

解決金は原則として「賃金」に当たらない

裁判所は、「解決金」という文言が、字義どおりの意味を超えて別の性質(賃金)を持つと認めるには、相応の裏付け証拠が必要と明確に指摘。

調停調書に賃金性を裏付ける記載がない

本件調停調書には、どの月分の賃金なのか、基本給なのか、残業代なのか、控除(所得税・社会保険料)に関する条項といった具体的な内訳や定めが一切なかった点が重視されました。

控除・相殺は認められない

  • 解決金は賃金ではない
  • 賃金でない以上、法定控除の対象にもならない
  • 相殺による支払い済み主張も不可

実務への影響

この判決は、飲食業の実務に極めて重要な示唆を与えます。

✔ 解決金=何でも賃金扱いできるわけではない

「未払い賃金が争点だから、解決金も賃金だろう」という安易な理解は危険です。

✔ 控除処理は特に要注意

解決金を賃金と誤認して、源泉所得税を控除、社会保険料相当額を差引といった処理をすると、未払いとして再度請求されるリスクがあります。

✔ 相殺処理は原則不可

労働関係における相殺は厳格に制限されています。
賃金でない解決金について、会社側が一方的に相殺することは、ほぼ認められません。


では、賃金として扱いたい場合は?

どうしても賃金として整理したい場合には、「○年○月分未払い残業代として支払う」、「源泉徴収・社会保険料控除を行う」、「その金額を明示する」といった明確な合意と記載が不可欠です。

調停調書・和解書の文言設計が極めて重要になります。


社労士からの実務アドバイス

飲食業では、労働時間管理が曖昧、未払い残業代トラブルが起きやすい、解決を急いで調書内容を深く検討しないというケースが少なくありません。

しかし、調停調書の一文が、数年後に大きな紛争を生むこともあります。


  • 解決金は原則「賃金」ではない
  • 控除・相殺はできないのが原則
  • 調書・和解書の文言が極めて重要
  • 専門家関与なしの対応はリスク大

労働審判・未払い賃金・解決金の扱いでお悩みの飲食店経営者様は、飲食業専門の社会保険労務士が実務目線でサポートいたします。

お問い合わせフォーム から、お気軽にご相談ください。