【令和8年4月から】健康保険の被扶養者認定のポイント


飲食業の現場で増えている「扶養に入れる?入れない?」問題

飲食店では、「扶養範囲内で働きたいパート・アルバイトが多い」、「ダブルワークやシフト変動が多い」、「年間収入が読みにくい」という特徴があります。

そのため、「扶養に入れると思っていたのに、130万円超えて社会保険に加入することになった…」
というトラブルが毎年多発しています。

さらに今回は令和7年10月1日付の厚労省通知(令和8年4月1日適用)T251006S0060により、
“労働契約ベースで年間収入を判断できる”という新しい考え方が示されました。

これは飲食業にとって非常に大きな影響があります。

本記事ではこの新ルールを、わかりやすく・実務的に・経営リスクも含めて詳しく解説します。


「被扶養者」とは?従来のルールを整理する

健康保険の被扶養者とは?

被保険者(従業員)の家族が健康保険の「扶養」に入れる制度です。
加入すると、以下のメリットがあります。

  • 健康保険料の負担なし
  • 医療費の負担軽減
  • 高額療養費の対象
  • 出産育児一時金の支給対象(配偶者の場合)

扶養に入るための“収入要件”

従来の基本は「年間収入130万円未満」(60歳以上・障害者は180万円未満 / 19〜22歳は150万円未満)でした。

ただし実務上は、「過去の収入」、「今後の見込み」、「ダブルワーク収入」などから総合的に判断していました。

飲食店では“現場での判断が難しい”という大きな課題がありました。


今回の通知のポイント

「労働契約に書かれた賃金額」で年間収入を判断

通知のもっとも重要な部分はここです。

新ルールの核心

労働契約書(労働条件通知書)に記載された賃金から計算して年間収入が130万円未満であれば
扶養と認めることができる。

  • 時給 × 契約上の所定労働時間 × 12か月
  • 各種手当を含めた契約上の賃金額

これは現場運用を大きく変えます。

パートさんのよくあるケース

例)
・時給1,100円
・週20時間
・手当なし

→ 1,100 × 20 × 52 = 1,144,000円(扶養内)

この“契約上の年収”が基準になります。


飲食店に大きな影響がある理由

シフト変動が激しい業界だからこそ重要

飲食店では繁忙期や欠員補填でシフトが増えることがあります。

従来:
「今年は忙しくて結果的に130万円超えたから扶養から外れてください」

 ↓
今後(原則):
「労働契約上、年間130万円未満だから扶養のままでOK」

会社側の書類整備責任が重くなる

通知書では次の書類を求めると明記しています。

  • 労働条件通知書
  • 契約上の賃金が分かる書類
  • 給与収入のみである旨の申立て

飲食店で多い「口頭契約」「LINEでシフト調整」では対応できません。

契約更新のたびに“扶養確認”が必要

通知にはこう書かれています。

労働契約の更新・労働条件の変更があった場合は、その都度、確認を行うこと。

飲食店では契約更新の頻度が高いので、必ずルール化しなければなりません。


臨時収入はどう扱われる?

→ 社会通念上妥当な範囲なら扶養から外す必要なし

通知では次のように定めています。

当初想定されなかった臨時収入により年間収入が130万円以上となっても社会通念上妥当な範囲なら扶養から外す必要はない。

臨時収入=

  • 一時的な残業
  • 特別手当
  • 代替勤務
  • イレギュラーな加給

などです。

飲食店では“急な欠員補填でシフトが増える”ことが多いので、非常に重要なポイントです。


他の収入がある場合は従来通り

通知より、「年金収入」、「事業収入」、「不動産収入」、「ダブルワーク収入」などがある場合は「従来通りのルール」で判断する。

つまり、今回の緩和の中心は“給与収入のみ”の人です。


飲食店が実務上すべき対応

労働条件通知書の整備

扶養判定は“契約上の賃金”がベースになるため、曖昧な通知書はNG。

契約更新時の扶養確認フローの設計

  • 年間収入の見込みの再計算
  • 扶養継続可否の確認
  • 誓約書の再提出

シフトの増減で基準額を超えないように管理

  • 繁忙期の調整
  • 他店ヘルプ時の時給管理
  • 店長判断でシフト増が起きないよう管理ルール整備

扶養内希望の従業員に対し教育

  • 130万円/150万円/180万円の違い
  • ダブルワークの影響
  • 所得税・住民税の違い

飲食店のリスクと注意点

扶養に入れるかどうかを会社が勝手に判断しないこと

会社が「扶養内で大丈夫ですよ」と言うのは危険。
最終判断は“保険者(協会けんぽ・健康保険組合)”です。

書類不整備で会社に指導が入る可能性

労働契約書が曖昧だと認定できません。

扶養判定を誤るとトラブルに

・従業員が遡って保険料を請求される
・会社が説明責任を問われる
・最悪の場合、従業員とのトラブルに発展


具体例で理解する扶養判定

● ケース1:パートAさん(時給1,200円・週18時間)

→ 年間1,123,200円 → 扶養OK

● ケース2:パートBさん(時給1,100円・週25時間)

→ 年間1,430,000円 → 扶養不可(国民健康保険または勤務先で健康保険加入)

● ケース3:繁忙期だけ週30時間になった

→ 契約上の20時間が変わっていなければ → 扶養継続OK

● ケース4:ダブルワークで月2〜3万円収入がある

→ 従来ルール → 合算して判定 → 扶養NGの可能性が高い


令和8年4月1日からの制度変更の意味

今回の通知は、特に飲食業のような非正規比率の高い業界では「扶養に入りやすくなる」方向の制度です。

ただし同時に、「労働契約の整備」、「シフト管理」、「収入見込み管理」などの実務負担は増えます。


当事務所からのアドバイス

飲食店で扶養内勤務の従業員を多数抱える場合、必ず以下の体制を整えてください。


労働条件通知書を最新の様式で作成

  • 所定労働時間
  • 時給
  • 賃金発生日
  • 手当の記載
    を明確に。

扶養内勤務のシフト管理ルールを整備

  • 勝手に勤務時間が増えないよう店長へ教育
  • 各店で扶養管理の意識統一

契約更新月に「扶養確認チェック」

  • 年間収入計算
  • ダブルワークの有無
  • 扶養継続の可否
    を必ず確認。

まとめ

✔ 扶養判定のチェックをしてほしい
✔ 労働条件通知書の整備をしたい
✔ シフト管理ルールを作りたい
✔ パートさんへ説明してほしい
✔ 社保加入ラインでトラブルが多い


今回の通知は飲食店に追い風になる一方、正しい運用ができないと逆にトラブルの元になります。

  • 労働契約の整備
  • 扶養判定のルール化
  • シフト管理の統一
  • 書面による証拠の残し方
    を徹底しましょう。

飲食業界に特化した専門社労士として、御社の店舗を“労務トラブル軽減”に導きます。

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