「店舗移転・改装・新店オープン」に伴う労務準備とリスク管理




なぜ“店舗移転・改装・新店オープン”は労務リスクが最大化するのか

飲食店において「移転」「改装」「新店オープン」は、経営における一大イベントであり、売上向上・ブランド強化・商圏拡大など、多くのメリットをもたらします。

しかし同時に、労務リスクが最も高まる瞬間でもあります。

  • 新人スタッフの大量採用
  • 研修不足のまま本番稼働
  • ベテランスタッフの負担増加
  • シフト調整の不備
  • 機材トラブルによる残業発生
  • 深夜営業開始による割増計算の複雑化
  • 内装工事の遅れでオープン準備が圧迫
  • 新オペレーション定着までの混乱
  • 店長・管理者の“オペ業務との両立疲れ”
  • 労働条件通知書が後回しにされる

これらが短期間に一気に襲いかかるため、「新店舗立ち上げ=労務の戦場」と言っても過言ではありません。

特に飲食業は労基署の調査が多い業界であり、「オープン直後の混乱で長時間労働が常態化していた」、「研修を開始したのに契約が未締結だった」、「深夜割増が正しく払われていなかった」など、労基法違反が発覚しやすいタイミングでもあります。

本記事では、飲食業専門の社会保険労務士の視点から、“店舗移転・改装・新店オープン時に必ず押さえるべき労務ポイント”を体系的・実務的に、徹底的に解説します。

さらに、飲食店で実際に起きた労務トラブル例もまとめています。


新店舗・移転・改装時に発生する5大労務リスク

① 採用ラッシュによる契約遅延と条件不一致

オープン直前は、採用・面接・契約・研修が一気に走ります。

  • 契約書の締結が後回しになった
  • 試用期間を伝え忘れた
  • 夜間・繁忙期の割増について説明していない
  • 契約時間数とシフト実績が合っていない

こうしたズレは後々「言った、言わない問題」「残業代請求」につながります。

▶ 労務ポイント

  • 面接時に条件を紙で渡す
  • 労働条件通知書は“研修初日までに”交付
  • LINEでやり取りしている場合は履歴保存
  • 繁忙期の想定残業を事前に説明

② 研修不足によるトラブル・事故・離職

飲食業の新人研修は、通常でもしっかり行うべきところ、オープン前はどうしても短期間で詰め込みがちです。

  • 皿洗い
  • レジ操作
  • ホール動線
  • 調理補助
  • 機材の使用方法
  • 安全衛生教育
  • 身だしなみ・接客方針
  • ハラスメント教育

これらを1~2日でやろうとすると、当然ムリがあります。

研修不足は事故・クレーム・退職・労災すべての原因になります。


③ シフト混乱による長時間労働の常態化

新店オープンは、不確定要素が非常に多いです。

  • 予想以上に客が来る
  • 工事が遅れて準備日が減る
  • POSやキッチン設備が稼働しない
  • 研修が間に合わない
  • ベテランの急な退職

結果、店長や社員が「毎日14時間勤務」みたいな状態に陥りがち。

これは労基署の調査では最も問題視されるポイントです。


④ 新設備導入に伴うトラブルと研修不足

  • 研修が間に合っていない
  • 操作マニュアルがない
  • 清掃ルールが曖昧
  • 定期点検の記録がない

こうした状態で事故が起きると、労災+安全衛生違反に発展する可能性があります。


⑤ 深夜営業・営業時間拡大による割増計算の失敗

深夜営業を始める場合、特に注意すべきは以下。

  • 深夜割増(22時〜)25%
  • 深夜かつ残業で50%
  • 深夜かつ休日で60%
  • 高校生(18歳未満)は深夜勤務できない

オープン時の混乱で給与計算が後回し→誤計算というケースは本当に多いです。


新店舗オープン前に必ず行うべき “労務チェック5項目”

① 採用・契約関係の書類をすべて整える

  • 労働条件通知書
  • 雇用契約書
  • 身元保証書
  • 源泉徴収票
  • 社会保険資格取得届
  • マイナンバー
  • 住民票住所の確認
  • 交通費の経路届

特に、飲食業ではパート・アルバイト比率が高いため、契約書まわりは重要です。


② 研修マニュアルのアップデート

新店舗では旧マニュアルが通用しないことも多く、“新オペレーション”に合わせた更新が必要です。

例)

  • ホール動線が変わる
  • キッチンの作業手順が変わる
  • 席数が増える
  • 分煙や換気設備の仕様が変わる
  • POSが新機種になる

③ シフト表の事前シミュレーション

特にオープン1ヶ月は、「実際の客入り」 が読めません。

  • 余裕のあるシフト配置
  • ピーク時の役割決め
  • 店長の休日日程を確保
  • 研修兼本番のスタッフを分ける
  • インカムを活用した連携体制の整備

これらをシミュレーションしておくことが重要です。


④ 労働時間管理ツールの整備

  • タイムカード
  • 打刻アプリ
  • シフト管理システム

店舗が増えるほど、「人時管理」の仕組み化が命 になります。


⑤ 深夜営業・長時間営業時の労務規定整備

  • 深夜割増
  • 未成年の扱い
  • 終電考慮
  • 終夜営業の休憩時間
  • 安全管理(帰宅時の防犯)

オープン前に必ず規定・説明が必要です。


実際にあった飲食店の労務トラブル事例

以下は、当事務所に寄せられた相談のうち、新店オープン時に発生したものを再構成した例です。


事例① 契約未締結のまま研修だけ開始 → 退職 → 残業代請求

研修に呼んだものの、契約が追いつかず、結果として残業代請求につながったケース。


事例② 研修不足による火傷事故 → 労災申請 → 休業補償請求

新人が短期間で揚げ場に入り、火傷。
マニュアル不備が問題視された例。


事例③ シフト混乱 → 社員の長時間労働 → 労基署から是正勧告

オープン直後、店長が毎日14時間勤務。
タイムカード乖離が発覚し是正勧告。


事例④ 深夜割増計算の誤りが半年放置 → バックペイ(遡及支払)へ

開店直後の繁忙で計算ミスが続き、深夜割増を半年分遡って支払うことに。



オープン後1〜2ヶ月間に起きる労務課題と対策

  • 予想以上の客数による疲弊
  • 退職・離脱
  • 研修不足露呈
  • 店長の過労
  • クレーム増加
  • 新人へのハラスメント
  • 安全衛生トラブル

これらは、1〜2ヶ月を乗り切る“持久戦”と捉え、事前準備が必須です。


社労士としてのアドバイス

飲食店のオープンは、やることが膨大で、「労務が後回しになる」 のが最大のリスクです。

しかし、労務トラブルは“1回起きるだけで数十万円〜数百万円の損害”になります。

  • 契約の整備
  • 研修の仕組み化
  • シフトの設計
  • 人時管理
  • 深夜割増の正確な計算

上記は、オープン前に完了させることが重要です。

当事務所では、「移転・改装・新店オープンを控えている」という企業様は、ぜひ一度ご相談ください。


まとめ

オープン直前にチェックすべき5項目

  1. 採用・契約書類は前倒しで
  2. 研修は“短期集中+継続”で設計
  3. シフトは余裕を持って組む
  4. 労働時間管理を仕組み化
  5. 深夜営業・長時間営業の割増計算ルールを整備

当事務所へのお問い合わせ

飲食業専門の社会保険労務士が、新店舗オープンの労務準備をフルサポートします。

  • 店長研修
  • 労務管理体制の構築
  • 契約書類の整備
  • 労基署対応
  • 安全衛生体制の整備

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