最低賃金法違反で会社と代表取締役が書類送検:境港市の事例から飲食業界が学ぶべき対策
2024年11月26日、鳥取県境港市にある船舶エンジン修理会社が、労働者6名に対し「約490万円の未払い賃金」を支払わなかったとして、最低賃金法違反の疑いで書類送検されました。
期間は 2024年4月21日〜11月20日までの7か月間。
総額は 約490万円。
平均すると 1人あたり月額約11.6万円が未払い です。
日本では、最低賃金法違反による書類送検は毎年発生していますが、その多くは「飲食業」「小売業」「サービス業」といった労働集約型産業で起きています。
今回の事例は製造・修理業ですが、構造は飲食業と極めて似ています。
目次
今回の事件の概要と最低賃金法の基本
事件の概要
米子労働基準監督署は、境港市の企業「スター工業」と代表取締役を 最低賃金法違反(減額払い等の禁止) の疑いで書類送検しました。
理由は次のとおりです。
- 労働者6名
- 2024年4月21日〜11月20日の7か月間
- 定期賃金(給与)合計約490万円 を
- 支払日に支払わなかった
最低賃金法違反は「額が最低賃金を下回っていた場合」だけでなく、
支払日までに賃金を払わなかった場合も“結果として最低賃金を下回った”と判断される ことがあります。
最低賃金の基礎知識
【鳥取県の最低賃金】
- 2024年10月4日以前 900円
- 2024年10月5日以降 957円
最低賃金は全国的に毎年上がっています。
特に飲食業の多い都道府県では上昇幅が大きく、経営に与える影響も大きいです。
なぜ未払い賃金が発生するのか:飲食店に共通する構造的問題
飲食業の相談を受けると、未払い賃金が発生する原因は次の7つがほぼ全てです。
売上が悪化し、資金繰りが苦しい
最も多い理由です。
日本の飲食業の利益率は平均3〜8%。
売上が10〜15%下がると、給与遅延が発生しやすくなります。
労務管理者不在で、給与計算が曖昧
「タイムカードがない」、「LINEでシフトを管理している」、「残業計算の方法が曖昧」という店舗は危険です。
長時間労働が常態化し、残業代が膨らむ
月80〜120時間の残業が放置され
↓
立て直せず未払いが累積する
というパターンが飲食業では多く見られます。
店長・社員の固定残業代制度が不適切
飲食業では固定残業代(みなし残業)を使うことが多いですが、こうしたケースは“違法”です。
- 労働条件通知書に明記なし
- 計算の根拠が不明
- 固定残業時間を超えても追加支払いがない
最低賃金改定に対応していない
毎年10月に最低賃金が上がるため、対応し忘れると「気付いたら違法」というケースが多発します。
手当の扱いを誤っている
最低賃金の計算に含めるもの・含めないものの理解不足により、正しく計算できていない事例が飲食業では多いです。
社員不足で、給与計算や労務管理が後回し
飲食店は店長・オーナーが調理や接客に入りがちで事務作業が遅れ、未払いが発生しやすい構造があります。
最低賃金法違反の罰則とリスク
最低賃金法違反は「軽い問題」ではありません。
罰則
50万円以下の罰金
法人だけでなく、代表取締役(=社長個人)も処罰対象 になります。
その他のリスク
- 労基署の定期監督が入り続ける
- 違法性が高い場合は送検される
- 行政処分
- 企業名が報道され、採用難に陥る
- 退職者や現従業員からの追加請求
- 労働審判や裁判に発展
特に飲食店は、口コミ・採用への影響が致命的 です。
未払い賃金が発生するとどうなるか:飲食業の実例
相談を受けた飲食店でよく起きる流れは次のとおりです。
- 売上悪化で3ヶ月給与遅延
- 従業員がSNSで告発
- 一斉退職
- 労基署の調査
- 未払い残業代の追加請求(100〜300万円)
- 資金ショート
- 閉店
こうしたケースは珍しくありません。
飲食店がとるべき未払い賃金対策
ここからは、飲食業専門の社会保険労務士として、
実際に導入して効果が出ている対策のみを解説します。
対策① 給与支払日=絶対厳守
当たり前ですが、最優先事項です。
給与が遅れると
- 違法
- トラブルの原因
- 信頼喪失
になります。
恒常的に資金繰りの問題がある場合は支払日を変更(就業規則変更)するという方法もあります。
対策② 最低賃金の自動確認システムを導入
毎年10月に自動でアラートが出る仕組みを持つべきです。
対策③ 労働時間の見える化(勤怠デジタル化)
紙のタイムカードは誤計算、改ざん、紛失が起きやすいです。
飲食店では次のシステムを使う例が増えています:
- Airレジ勤怠
- スマレジタイムカード
- KING OF TIME
これだけで未払いリスクが大幅に下がります。
対策④ 固定残業代(みなし残業)を正しく運用
飲食店の違法固定残業代の相談は非常に多いです。
正しく運用するためのチェックリスト
- 労働条件通知書に明記しているか
- 固定残業代の“内訳”を記載しているか
- 時間外労働が固定残業時間を超えた際、追加支払いをしているか
対策⑤ 賃金の支払方法を一本化
「店ごとに支払日が違う」といった運用は危険です。
銀行振込を基本にすることで透明性が高まります。
対策⑥ 残業代計算を毎月チェック
飲食業は「変形労働時間制」を誤って利用している店が多く、その結果、未払いとなります。
- 1ヶ月単位の変形労働時間制の届出はあるか
- 36協定は提出しているか
- 法定休日は確保できているか
対策⑦ 社労士による定期チェック
未払い賃金は、月1回の労務監査を実施するだけでほぼゼロにできます。
当事務所への相談でも、「毎月チェックしたい」という依頼が急増しています。
「給与遅延→退職→請求」の最悪ルートを避けるには
飲食店の未払いトラブルは、発覚後に一気に加速します。
- 一人が「給与が遅れている」と気付く
- SNSで共有
- 従業員全員が知る
- 退職が連鎖
- 労基署へ申告
- 労働審判で数百万円請求される
給与遅延や最低賃金割れは1名から連鎖で広がります。
鳥取県の最低賃金と、飲食業への影響
鳥取県の最低賃金は次のとおりです:
- 2024年10月4日以前…900円
- 2024年10月5日以降…957円
上昇幅は +57円(6.3%)。
957円は全国的には低めですが、地方の飲食店にとって57円アップは大きな負担です。
最低賃金法違反のよくある質問
■Q. 最低賃金以下の賃金を払ってしまったら?
差額を遡って支払わなければなりません。
■Q. 固定残業代を使えば最低賃金以下になるのを避けられる?
固定残業代は最低賃金に算入しません。
(※正しい方法で計算した場合)
■Q. 給与が払えない場合、どうすべき?
最悪の手段として「給与支払日の変更」がありますが、必ず事前に労働者の同意や就業規則変更が必要です。
飲食店の未払い賃金をゼロ対策
飲食店は、労務トラブルが起きやすい業種です。
当事務所では以下のサポートを提供しています:
① 未払い賃金の事前チェック
残業代・固定残業・最低賃金のリスクを分析します。
② 毎月の給与計算のチェック
給与計算のミスをゼロにします。
③ 就業規則・雇用契約の整備
無効な固定残業代制度を正しく再構築します。
④ 労働時間の管理システム導入支援
システム選定から導入までサポートします。
⑤ 労基署対応・是正勧告対策
書類提出・改善計画書までサポートします。
まとめ:今回の境港市の書類送検から学ぶべきこと
- 給与遅延は違法
- 最低賃金法違反は書類送検される
- 飲食業は未払い賃金が発生しやすい
- 労務管理の体制が弱いと発生リスクが高い
- 早めの労務チェックで未払いはゼロにできる
今回の事件は飲食店にも直接関係する「警鐘」です。
「うちの店も最低賃金に合っているか不安」
「固定残業代が正しいかわからない」
「未払いがあるか確認してほしい」
お電話や お問い合わせフォーム から、お気軽にご相談ください。
初回相談はオンライン・無料対応しています。


