給与の「締め日」と「支払日」を明示していないリスク~飲食店で意外と多い“契約書の抜け”がトラブルの火種に ~
目次
なぜ「締め日・支払日」は明示しなければならないのか
飲食店の雇用契約書で多いのが、「給与の締め日や支払日を記載していなかった」というケースです。
たとえば、「うちは末締め翌月10日払いでやってます」、「手渡しの時期はシフト次第で前後します」、など、現場感覚で運用している店舗は多いものの、“書面に明示していない”=法令違反 に該当する可能性があります。
■ 労働基準法の根拠
労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条では、使用者が労働者を雇い入れる際に、必ず書面で明示しなければならない事項が定められています。
その中には、
賃金の決定・計算・支払いの方法、締切および支払の時期が明確に含まれています。
つまり、「いつまで働いた分を、いつ払うか」を明示しないまま雇用してはいけないのです。
■ “口約束”ではダメな理由
「うちは口頭で説明しているから大丈夫」という相談もありますが、労基署は書面による明示を重視します。
口頭説明では、以下のようなトラブルが起こりやすくなります。
- 「いつの給与がまだ支払われていないのか」認識がズレる
- 「今月の支給が遅れている」とスタッフが不満を持つ
- 「給与のカットや遅延」を疑われ、SNSで炎上する
特に飲食業では、学生アルバイトや外国人スタッフも多く、支払時期の違いが理解されにくいため、トラブル化しやすい項目です。
締め日・支払日を曖昧にしている店舗で起こりがちなトラブル
ここでは、実際に飲食店であった具体的なトラブル事例を紹介します。
① 支払日が不明で「未払い」扱いになったケース
ある個人経営の焼肉店では、「末締め・翌月10日払い」という慣習がありましたが、雇用契約書には記載がなく、スタッフには明確に説明していませんでした。
ある日、退職するアルバイトが「まだ給与をもらっていない」と主張。
事業主は「10日に払う予定だった」と説明しましたが、労基署は**「契約書に支払日がない=支払期日不明確」**として、未払い賃金の是正指導を受けました。
② 日払い・週払いと誤解されたケース
「締め日・支払日」が曖昧なため、スタッフが「働いた分は翌週もらえる」と思い込み、支払いがないと「給与未払い」とSNSに投稿。
結果、ネット上で店舗の評判が下がり、採用にも悪影響を与えました。
③ シフト制スタッフとの誤解
飲食業では「シフト提出日」と「給与締め日」が混同されやすいです。
特にダブルワークのスタッフは、
「どの店の給与がいつ振り込まれるか」が混乱しやすく、
管理者側が明示していないと、信頼関係の崩壊にもつながります。
明示していないと、法律上どんなリスクがあるのか?
■ 労働基準法違反(第15条違反)
締め日・支払日を明示していない場合、労働条件の明示義務違反となり、30万円以下の罰金の対象となることがあります。
■ 行政指導・是正勧告の可能性
労働基準監督署の調査で「雇用契約書不備」が確認されると、
是正勧告書に「締め日・支払日を明示した契約書に改訂するように」と指導されます。
対応を怠ると、社名が公表されるケースも。
■ 労働トラブル時に不利になる
給与未払い・遅延支払いのトラブルになった際、契約書に締め日・支払日がなければ、「いつの給与を支払うべきか」判断できず、事業主側が不利に扱われやすいです。
■ 信頼性・採用力の低下
近年は、求人サイトやSNSで「労務整備がされていない店舗」がすぐに拡散されます。
「契約書が適当」「給与の支払いがあいまい」と感じられた時点で、応募数は激減します。
正しい「締め日・支払日」の決め方と運用方法
■ 一般的な設定例
| 締め日 | 支払日 | 特徴 |
|---|---|---|
| 末日 | 翌月25日 | 一般的な中小企業型。給与計算・振込に余裕あり。 |
| 15日 | 末日 | スピード感重視型。飲食業アルバイトに多い。 |
| 10日 | 25日 | 現金支給・シフト制店舗に多い。 |
■ 注意すべきポイント
- 毎月1回以上の支払いが原則(労基法第24条)
- 一定期日払いであること(支払日が月ごとにズレない)
- 休日に当たる場合の取り扱いを明示する
(例:「支払日が休日の場合は前営業日に支払う」)
■ 雇用契約書への正しい記載例
賃金は、毎月末日をもって締め、翌月25日に支払う。
ただし、支払日が銀行休業日にあたるときは、前営業日に支払うものとする。
このように、締め日・支払日をセットで明示し、例外条件(休日振替)も含めておくことが重要です。
■ 運用上のポイント
- 支払日をずらす場合は、事前に書面で同意をとる
- アルバイト・パートにも統一ルールを適用する
- 現金支給の場合は受領サインまたは支払記録を残す
- 給与明細書の発行は全員に必須
飲食店がすぐにやるべき実務チェックリスト
✅ 雇用契約書チェックリスト
| 項目 | チェック | 備考 |
|---|---|---|
| 給与の締め日が明記されているか | □ | 「毎月末日」など具体的に |
| 支払日が明記されているか | □ | 「翌月25日」など固定日 |
| 支払方法(振込・手渡し)が明記されているか | □ | 「銀行振込」推奨 |
| 支払日が休日に当たる場合の対応を記載しているか | □ | 前営業日支払など |
| 雇用契約書を全員に交付しているか | □ | 電子契約も可 |
✅ 飲食業特有の注意点
- シフト制スタッフの退職時は、締め日までの日割り計算を明確に
- 繁忙期の臨時ボーナスを「給与扱い」にしない(社会保険・税務上の注意)
- 店長裁量で支払日変更はNG(労基法違反リスク)
- **手渡し時の“封筒ミス”**は必ずダブルチェック
社労士からのアドバイス
飲食業は「人」で成り立つビジネスです。
そのため、給与に関する信頼性が経営の根幹を支えます。
「細かい話だし、みんなわかってるだろう」と思う部分こそ、法的には明確化が求められます。
特に、今後の労基署調査やSNSでの炎上対策を考えると、“書面で残す”ことが最大のリスク対策です。
【まとめ】
締め日・支払日の明示は法律で義務づけられている
曖昧にすると、未払いトラブルや炎上の原因に
明示の書式例を契約書に明記し、全スタッフに説明を
労務整備は“信頼づくり”と“リスク回避”の両輪
当事務所からのご案内
当事務所(社会保険労務士法人給与Biz)では、飲食業専門として以下のサポートを行っています。
- 雇用契約書・労働条件通知書の整備
- 給与計算の運用ルール構築
- 労基署調査対応
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