車通勤手当の非課税額が11年ぶりに引き上げへ


~飲食店が知っておくべき労務・税務対応と実務ポイント~


「車通勤手当の非課税限度額」が飲食業にとって重要なのか

2025年、飲食店オーナーや店長、人事労務担当者にとって見逃せないニュースが発表されました。

車通勤手当(マイカー通勤手当)の非課税限度額が、11年ぶりに引き上げられる。

財務省が2025年11月14日に発表したもので、物価高対策の一環として、ガソリン価格上昇・生活費高騰を背景に「通勤コスト負担を軽減するため」という位置づけです。

飲食業は都市部・郊外ともに「車通勤」依存度が非常に高い業界です。

  • 駅から遠いロードサイド店舗
  • 深夜営業で公共交通機関が動いていない
  • 人材確保のため車通勤を認めざるを得ない
  • シフト制で通勤時間がバラバラ

このように、車通勤手当は飲食業にとって重要であり、採用・定着にも直結する重要な制度です。

今回の非課税枠引き上げは、飲食店にとっては “手当の見直しが必要になる可能性が高い” 重大ニュース。

そして、正しく理解しておかないと、さまざまなリスクに直結します。

  • 税務上の取り扱いを誤り → 従業員の年末調整でミス発生
  • 手当設定を誤り → 過大支給・過小支給による労務トラブル
  • 就業規則の記載と実態がズレて → 指摘・相談リスクが上昇

本記事では飲食業専門の社会保険労務士として、今回の非課税枠見直しを徹底的にわかりやすく解説します。

飲食店がとるべき実務対応、注意するべきポイント、そして社労士としてのアドバイスまで網羅して解説していきます。


非課税限度額はどのように変わる?

1. 発表の概要

財務省は2025年2月14日、マイカー通勤者が受け取る通勤手当について所得税が非課税となる限度額を、最大で月7,100円引き上げると発表しました。

2. 対象となる時期は?

2025年4月以降に支給される通勤手当が対象で年末調整にてまとめて精算されます。

3. 距離別 非課税限度額の新旧比較

以下が財務省が発表した新たな非課税限度額です。

片道10〜15km未満

  • 旧:7,100円
  • 新:7,300円(+200円)

片道15〜25km未満

  • 旧:12,900円
  • 新:13,500円(+600円)

片道25〜35km未満

  • 旧:18,700円
  • 新:19,700円(+1,000円)

片道35〜45km未満

旧:24,400円

新:25,900円(+1,500円)

片道45〜55km未満

旧:28,000円

新:32,300円(+4,300円)

片道55km以上

  • 旧:31,600円
  • 新:38,700円(+7,100円)

4. 最大7,100円アップした理由

物価高騰に伴い、通勤に不可欠なガソリン費用が高騰し続けているためです。

飲食業の現場も同様で、深夜シフト、早朝仕込み、ランチ~ディナー通し勤務、郊外型店舗など、公共交通機関の利便性が低い店舗では車通勤が中心です。

そのため、燃料費への影響は他業種以上に深刻です。


飲食業の現場で起こりがちな「車通勤手当の誤った取り扱い」

飲食業の労務相談では、車通勤手当に関して、次のようなトラブルが毎年発生しています。

以下は実際の相談例を再構成したものです。


(誤り①)公共交通機関を使った場合の定期代を基準にしている

例:「本来は自宅から最寄り駅まで電車で来れる距離だから、電車代のほうが安いので定期代で払っています」

これ、NGです。

車通勤手当は 実際の通勤方法(車)が前提
「電車で来れるはず」という理由で電車の定期代に置き換えることはできません。


(誤り②)ガソリン代領収書で支給額を決めている

→ ガソリン代は給与扱いではありません。
通勤手当は「距離に応じた一定額」で支給するのが原則です。

領収書方式は、金額がその時々で変わる、私用利用分との区別がつかない、税務上も労務上も不透明となり、トラブルの原因になります。


(誤り③)従業員が自分で勝手に「距離」を申告している

→ よくあるのが、「自宅から店まで15kmです!Googleで見たので」、「うちは地元だから手当はこれでいいよね」といったケース。

距離は会社が客観的に確認する必要があり、従業員任せはNGです。

おすすめは、Google Mapsで「最短距離」ではなく「一般的な通勤経路」を採用し、就業規則に「会社が認めた距離」と明記することでトラブル防止になります。


(誤り④)マイカー通勤許可を「口頭」で済ませている

→ 飲食店に多い「人手不足ゆえの口頭許可」。

しかし、事故が起きた際に労災対応でトラブルになります。


(誤り⑤)駐車場代の扱いを曖昧にしている

駐車場代も通勤手当の一部として非課税になります。

これを知らずに、駐車場代を給与扱いにしてしまう、手当に含めず従業員負担にしている、領収書方式で精算しているなどの誤りが多く発生します。


今回の改正で「飲食店が必ず見直すべきポイント」

今回の改正を受け、飲食店の皆様に必ず実施していただきたいのは次の5点です。


① 現在支払っている「車通勤手当」が非課税枠を超えていないか確認

特に

  • 片道10km以上
  • 手当が既に旧基準を超えていた
  • ガソリン代高騰で手当額を増やした

という店舗は要チェックです。

非課税枠を超える部分は給与扱いとなり、所得税の対象になります。

従業員の手取りに影響するため、非常に重要です。


② 距離区分が適正か再確認(Google Mapsの見直し推奨)

今回の見直しを機に、距離計算のルールも見直しましょう。

  • 店舗移転
  • 従業員の引っ越し
  • 通勤経路の変更
  • 道路開通による最短距離の変化

など、「距離が変わる」ケースは意外と多いです。


③ 就業規則の通勤手当規定の改定

飲食業で最も多いのは、就業規則が旧基準のまま距離区分が曖昧なまま「会社が認めた場合に限る」が書かれていないといったケース。

今回の改定は11年ぶり。

就業規則の通勤手当部分も、ほぼ確実に“更新すべきタイミング”です。


④ 駐車場代の取り扱い統一

  • 手当として支給するのか
  • 店舗が借りて提供するのか
  • 領収書方式を採用しないのか

ここも明確にしておく必要があります。

駐車場代を給与扱いしてしまう飲食店は毎年のように見かけます。


⑤ 年末調整の対応(2025年分)

今回の非課税枠引き上げは 2025年4月以降の通勤手当が対象です。

年末調整では、

  • 4月以降の手当支給状況
  • 非課税枠超過の有無
  • 支給額の再計算

などが必要になります。

税理士と社労士の連携が必須です。


飲食店における「車通勤手当の最適設計」完全ガイド

ここでは飲食業に特化して、車通勤手当のベストプラクティスを解説します。


① 手当は給与ではなく「福利厚生」視点で設定する

手当は従業員の生活の安定性を支える重要な施策です。

  • シフト制
  • 深夜勤務
  • 郊外店舗
  • 交通手段が限られる人材層

飲食業で働く方の多くは、生活拠点が職場から離れていたり、家計への影響が大きい層です。

適切な手当を設定することは

  • 採用力アップ
  • 定着率アップ
  • 労務トラブルの予防

につながります。


② 距離区分は国税庁の基準に完全準拠

会社独自の区分にするとトラブルが起きます。

国税庁の非課税限度額表をベースに設定することで

  • 税務調査でも説明しやすい
  • 従業員への説明も簡単
  • 誤りが少ない

というメリットがあります。


③ 交通費申請フローを「従業員任せ」にしない

運用は次のように定義するのがベストです。

1️⃣ 従業員が「通勤経路申請書」を提出
2️⃣ 会社がGoogle Mapsで距離を確認
3️⃣ マイカー通勤許可証を発行
4️⃣ 就業規則の区分に沿って手当を決定
5️⃣ 変更時は必ず申請させる

事故発生時の労災対応にも必要なプロセスです。


④ 深夜勤務がある店舗は車通勤許可の基準を明記すべき

飲食業は深夜帯の勤務が避けられない特殊な業界です。

深夜の車通勤はリスクが高いため、

  • 飲酒後の運転禁止
  • 業務後の休憩(インターバル)
  • 安全運転義務
  • 事故時の報告義務

これらを就業規則に組み込む必要があります。


⑤ 駐車場代は「手当」または「会社負担」を明確化

駐車場代は非課税扱いにできます。

ただし、会社が負担するのか、手当として支給するのかは統一しておかなければトラブルになります。


飲食業専門社労士としてのアドバイス:今回の改正で最も注意すべき点

改正ポイントを踏まえて、特に飲食店が気をつけるべき点をまとめます。


① 今回は「11年ぶり」の改定 → 就業規則が追いついていない店舗が大半

過去のご支援経験から言えることですが、

通勤手当規程が古い飲食店ほど、労務トラブルが多い。

規定が古ければ、従業員は必ずこう思います。

「どっちが本当のルールなの?」

規定は従業員との信頼関係をつくる基盤です。
まず最優先で更新しましょう。


② 「非課税だから得」という誤解をなくすべき

従業員からよく聞く誤解↓

  • 「非課税=税金がゼロになるから損はしない」
  • 「距離が長い人が得」
  • 「車の維持費も全部会社が補填するべき」

この誤解は必ずトラブルにつながります。

会社としては

手当は「通勤にかかる合理的な負担」を支援するもの
生活費全般を支援する制度ではない

という原則を明確に伝えましょう。


③ 手当を増額するかは“経営判断”でよい

今回の非課税枠アップに対して

  • 手当が今のままでもOK
  • 非課税枠ギリギリまで上げるのもOK
  • 運用ルールを整備するだけでもOK

何が正解ということはありません。

重要なのは 「ルールが明確であること」
そして 「全員に対して公平であること」 です。


飲食店が今すぐ実施すべき「3点セット」

① 就業規則:通勤手当規定の改定

  • 距離区分を最新化
  • 非課税限度額に沿った形へ
  • マイカー通勤許可要件の明文化
  • 距離の算定方法(Google Maps等)を明記
  • 駐車場代の取り扱いを明記

② 車通勤の申請・許可フローの整備

  • 通勤経路申請書
  • 自動車情報(車両ナンバー・任意保険加入)
  • 許可証の発行
  • 変更時の届出ルール

特に任意保険の加入状況は必須です。


③ 給与計算システムの設定見直し

  • 非課税枠の更新
  • 支給額の自動判定
  • 年末調整時の処理
  • 社会保険計算への反映

給与計算担当者だけでなく、税理士事務所との連携が必要です。


当事務所からのサポート:飲食業の車通勤手当最適化支援

当事務所では飲食業専門として、

  • 車通勤手当の見直し
  • 就業規則の更新(通勤手当規定のみの改定OK)
  • マイカー通勤許可フローの設計
  • 給与計算システムの設定
  • 年末調整の改善
  • 従業員説明資料の作成

まで一貫してサポートしています。


今回の非課税枠引き上げは“飲食店の労務整備”を進めるチャンス

今回の改定は単に「手当が増える」という話ではありません。

車通勤手当の制度そのものを見直す絶好のタイミング。

飲食業でよく起こる誤りを正し、従業員が安心して働ける制度設計を作ることで、

  • 採用力向上
  • 離職率低下
  • 労務トラブルの減少
  • 税務リスク回避
  • 経営の安定化

につながります。


無料相談のご案内

  • 車通勤手当の設定に不安がある
  • 今の基準が適正かわからない
  • 就業規則が古い
  • 通勤手当のルールが従業員に伝わっていない
  • 駐車場代の扱いをどうすべきか知りたい

こういったご相談は非常に多く寄せられています。

飲食業専門の社会保険労務士として、御社の状況に合わせた 最適な制度設計 をご提案いたします。

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