【飲食店経営者向け】職種・業務限定合意がある従業員の配置転換命令に注意
―最高裁令和6年4月26日判決から学ぶ、異動命令の限界と実務対応―
目次
今回の最高裁判決の概要と背景
1. 判決の基本情報
- 裁判年月日:令和6年4月26日
- 裁判所名:最高裁 第二小法廷
- 事件番号:令5(受)604号
- 事件名:損害賠償等請求事件
- 結果:原判決破棄・差戻
- 文献番号:2024WLJPCA04269001
2. 判決の要旨
本件は、「労働者と使用者との間で、職種や業務内容を特定のものに限定する合意があった」
にもかかわらず、使用者がその同意なく異なる職種に配置転換したことが問題となった事案です。
原審(高裁)は「配置転換命令の濫用には当たらない」と判断しましたが、最高裁はこれを否定し、「職種・業務限定の合意がある場合に同意なく転換命令を出した判断には違法がある」として、
破棄差戻としました。
3. 何が争点だったのか?
争点は、次の2点に整理されます。
- 職種・業務限定合意の有無
→ 労働契約の内容として、「この職種のみ」「この業務のみ」とする合意があったか。 - 異動命令の適法性
→ 会社がその合意を無視して転換命令を行う権限を持っていたか。
→ また、その行使が濫用に当たらないか。
最高裁は、「限定合意がある以上、その合意を無視した転換命令は権限の逸脱」と明言しています。
職種・業務限定合意とは何か
1. 「職種・業務限定合意」とは?
労働契約において、「この業務のみ行う」、「この店舗でのホール業務に限る」といった、労働者の職務範囲を限定する合意を指します。
通常の雇用契約では、就業規則や人事権に基づき、ある程度の範囲で「異動」「配置転換」が可能です。
しかし、この限定合意がある場合は、使用者の裁量が著しく制限されます。
2. 飲食業における典型的な限定合意の例
飲食業では、次のようなケースが典型です。
- 「調理スタッフとして採用(ホール業務は含まない)」
- 「パティシエとして採用(接客業務を行わない)」
- 「A店舗限定での勤務を希望・合意」
- 「時短契約により厨房補助のみ担当」
こうした合意が採用時の求人票・面接記録・雇用契約書などに明記されている場合、職種・業務限定合意が成立する可能性があります。
3. 限定合意がある場合の配置転換のリスク
会社がこの合意を無視して異動を命じた場合、以下のようなリスクが発生します。
| リスク内容 | 説明 |
|---|---|
| 配置転換命令の無効 | 労働契約の範囲外命令として無効になる可能性 |
| 損害賠償請求 | 精神的苦痛・賃金格差などを理由に訴えられる可能性 |
| 労働契約法13条違反 | 合意内容を一方的に変更したと判断される |
| 労基署・労働局の介入 | 紛争調整・あっせん・訴訟へ発展するリスク |
今回の最高裁判断のポイント
1. 「配置転換命令権の濫用」判断の枠組み
通常、企業には「人事権」があり、配置転換命令は広く認められています。
しかし、これが濫用にあたるかどうかは、次の3要素で判断されます。
- 業務上の必要性があるか
- 労働者に過度な不利益を与えていないか
- 不当な動機・目的がないか
この判例では、「そもそも職種・業務を限定する合意があった以上、人事権の範囲を超えていた」とされました。
つまり、“濫用かどうか”以前に「命令権自体がなかった」と言えます。
2. 最高裁が示した明確なメッセージ
最高裁は次のような立場を示しました。
「労働者の職種・業務を特定のものに限定する旨の合意がある場合、その合意に反する配置転換命令を、労働者の同意なしに行うことはできない。」
これは、企業の人事裁量の限界を明確にした判断であり、とくに小規模・多店舗展開型の飲食業においては、非常に重要な教訓です。
3. 実際の飲食店で起こり得るトラブル例
- 「ホール専任で採用したが、人手不足で厨房に回した」
- 「店長候補として採用したが、突然本社勤務を命じた」
- 「カフェスタッフを別店舗の居酒屋部門に転属させた」
これらは一見「当然の運用」に見えますが、採用段階で「限定合意」があったと認められれば、違法な転換命令とされるおそれがあります。
飲食店における実務対応と就業規則の見直し
1. 採用段階での明確化が最重要
裁判では、「どこまでを労働契約の範囲として合意したか」が常に争点になります。
したがって、採用時点で次の項目を明記することが極めて重要です。
<雇用契約書・求人票に必ず記載すべき項目>
- 就業場所の範囲(店舗限定か全店共通か)
- 職種・業務内容の範囲(調理・接客など)
- 配置転換・異動の可能性(ある場合はその範囲)
- 就業規則との関係(「就業規則に基づき異動を命じる場合がある」等)
2. 限定合意の回避方法
会社が柔軟な人員配置を行いたい場合は、「職種・勤務地を限定しない」旨の合意を明記することが有効です。
例:
「当社の業務運営上の必要に応じて、勤務地・職種・業務内容を変更することがあります」
この一文があるかないかで、後のトラブル発生率が大きく変わります。
3. 就業規則の規定例(適法な配置転換条項)
(配置転換)
第○条 会社は、業務上の必要により、従業員に対して職種、勤務地、業務内容の変更、
ならびに他の部署または他店舗への配置転換を命ずることがある。
ただし、これにより労働者に通常甘受すべき程度を超える不利益を与えてはならない。
こうした条項を整備することで、人事権行使の根拠を明確化できます。
4. 実務上の運用ポイント
| 項目 | 実務上の留意点 |
|---|---|
| 面接時の説明 | 職種・勤務地の変更可能性を口頭で説明し、記録を残す |
| 雇用契約書 | 職種欄に「接客業務(店舗運営全般)」など幅を持たせる |
| 異動命令時 | 文書(通知書)を交付し、同意書を取る |
| 不満対応 | 面談記録を残す・転換理由を合理的に説明 |
5. トラブル発生時の対応
もし、従業員から「契約違反だ」と主張された場合は、次の順に対応するのが基本です。
- 契約書・求人票の確認
→ 職種限定の記載があるかどうか確認。 - 配置転換理由の整理
→ 事業上の必要性があったか。 - 本人との面談・同意確認
→ 書面記録を残す。 - 第三者機関への対応
→ 労働局あっせん・弁護士・社労士へ相談。
社労士からのアドバイスとまとめ
1. 今回の最高裁判決の意義
この判決は、「職種・業務限定合意がある場合、企業の人事権には限界がある」ことを明確に示したものです。
中小飲食店では、「人手不足だから他のポジションに回す」は日常的な判断ですが、それが“契約違反”となりうるという警鐘でもあります。
2. 飲食店経営者が今すぐ確認すべきポイント
- 雇用契約書に「職種・勤務地変更あり」と書いているか
- 面接時の説明記録が残っているか
- 就業規則に配置転換条項があるか
- 配置転換時に同意・理由説明を行っているか
これらが整備されていないと、後に訴訟で不利になる可能性があります。
3. 当事務所からのサポート内容
飲食業専門の社会保険労務士として、当事務所では以下を支援しています。
- 職種・勤務地条項を含む雇用契約書テンプレートの作成
- 就業規則の改定・点検(配置転換・異動ルールの明文化)
- トラブル事前予防コンサルティング(採用~配置まで一貫サポート)
- 労働者とのトラブル発生時の初期対応・あっせん対応支援
4. まとめ
- 職種・業務限定合意がある場合、同意なく異動命令はできない
- 採用時の記録・契約内容が最重要
- 小規模店舗ほど人事権の範囲が誤解されやすい
- 就業規則・契約書の整備が最大の防御策
5. ご相談ください
「採用時に“調理だけ”と話したのに、ホールもやらせたら問題?」
「人手不足で別店舗に異動を命じたいけど、拒否された…」
「契約書に書いていないが、全店対応させてきた」
こうしたご相談はすべて、“配置転換命令の適法性” に関わる重要なテーマです。
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