東京弁護士会が再び注意喚起/退職代行サービスに潜む“非弁行為”リスクとは?

― 東京弁護士会の注意喚起を踏まえて、飲食店経営者が知っておくべきポイント ―


退職代行サービスとは?飲食業でも増える“突然の退職”

●「退職代行」サービスの登場背景

ここ数年、「退職代行サービス」という言葉をよく耳にするようになりました。
特にコロナ禍以降、若手社員やアルバイトの早期離職が増え、直接上司に退職を伝えず「代行業者」が会社へ連絡するケースが目立っています。

「昨日まで普通に働いていたスタッフが、翌日になって“退職代行を通して辞めます”と連絡してきた…」
このような経験をした飲食店経営者の方も少なくないでしょう。

退職代行サービスは、一見すると「本人に代わって退職の意思を伝えるだけの代行業」に見えます。
しかし、実際にはその裏に法律に関わる重大なリスクが潜んでいます。


東京弁護士会が再び注意喚起した理由

2025年10月22日、東京弁護士会の非弁護士取締委員会が、「退職代行サービスと弁護士法違反に関する注意喚起」を改めて公表しました。

この注意喚起は、退職代行サービスによる“非弁行為”(=弁護士でない者が法律事務を扱う行為)が、依然として多数見られるためです。

●「非弁行為」とは?

弁護士法第72条では、

「弁護士または弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で、法律事件に関して代理・仲裁・和解などの法律事務を行ってはならない」
と定められています。

つまり、お金をもらって、法律に関する交渉や助言を行うことは、弁護士以外には禁止されています。

退職代行業者の中には、「未払い残業代の交渉」や「パワハラ慰謝料の請求」など、法律判断を伴う業務まで請け負ってしまうケースがあり、これが“非弁行為”にあたると問題視されています。


実際にあった「非弁行為」事例

東京弁護士会の発表では、実際に以下のような事例が紹介されています。

【事例1】残業代の交渉を代行したケース

退職代行業者が本人の代わりに会社へ「未払い残業代を払え」と要求し、金額の計算まで行った。
結果、会社が支払に応じたが――これは法律上の交渉であり、弁護士でない者が行うと弁護士法違反です。

【事例2】パワハラ慰謝料の請求を行ったケース

業者が労働組合と提携し、本人の代わりに慰謝料請求の交渉を行った。
報酬を受け取って他者に法律事務を斡旋することも非弁行為に該当します。


飲食店経営者が直面する「退職代行トラブル」の現場

●飲食業は特に退職代行が多い業種

飲食業界は人手不足と労働環境の厳しさから、退職代行を利用する若手層が非常に多い傾向にあります。
理由は以下の通りです。

  • 直接言いづらい人間関係
  • 長時間労働・シフトの不満
  • 正社員登用前の早期離職
  • SNSなどで「退職代行使えば簡単」と広まった影響

しかし、経営者の立場から見ると、退職代行を使われると「本人との接触が断たれる」ため、
引き継ぎ・備品返却・退職金処理などの実務に大きな支障をきたします。

●「退職代行業者」とのやりとりで注意すべきこと

退職代行から連絡があった場合、感情的に対応してはいけません。
対応を誤ると、逆に「不当な対応をされた」と労働トラブルに発展する可能性があります。

経営者として重要なのは、以下を慎重に見極めることです。
① 相手が本当に「本人の意思を伝えるだけ」なのか
② 「交渉」や「請求」など法律的な話を持ち出していないか


正しい対応とトラブルを防ぐための実務ポイント

① 退職代行からの連絡は「事実確認」を最優先に

まず、本人の退職意思が確かであるかを確認しましょう。
退職代行からの連絡であっても、「退職届」や「メールでの本人確認」が必要です。

② 法律交渉には応じない

退職代行から「未払い残業代を支払ってください」「慰謝料を請求します」などの言葉があった場合、それは法律的な交渉にあたります。
この場合、「そのような交渉には弁護士を通してください」と明確に伝えましょう。

③ 労働条件の確認や精算は「書面」で進める

口頭でのやりとりは誤解の元になります。
退職日・給与計算・有休消化・社会保険喪失日などは、必ず書面で整理しましょう。

④ 「退職代行を使われない職場」づくりを

退職代行の背景には、職場のコミュニケーション不足があります。
「言い出しにくい」「相談できない」環境を見直すことも、経営リスクの低減につながります。

定期的な面談、スタッフアンケート、労務相談窓口の設置なども有効です。


まとめ ― 社労士としてのアドバイス ―

退職代行を通じた退職は、単なる「辞めます」連絡ではなく、法的トラブルの入り口でもあります。
経営者としては、感情的に反応するのではなく、「どの範囲までが本人意思の伝達で、どこからが法律行為か」を冷静に判断することが大切です。

また、今回の東京弁護士会の注意喚起が示すように、非弁行為(弁護士法72条違反)は、業者だけでなく、対応を誤った企業側にも影響を及ぼす可能性があります。

もし退職代行対応に迷った場合や、未払い残業代・慰謝料請求などの話が出た場合は、社労士・弁護士などの専門家へ早めに相談してください。


当事務所からのご案内

当事務所では、飲食店専門の社会保険労務士として、退職代行対応・離職手続き・労務トラブル防止策の設計をサポートしています。

  • 退職代行から連絡が来た際の初期対応マニュアル
  • 労働条件通知書・退職届テンプレートの提供
  • 未払い賃金やトラブル防止の社内体制づくり

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