主治医が「復職可能」と言っても復職できない?〜診断書・産業医・情報提供拒否と「自然退職」が争われた裁判例〜
目次
「復職可能」の診断書があれば安心、ではない
「主治医が復職OKと言っているのに、会社が認めてくれない」
「診断書を出したのに、復職できずに退職扱いになった」
飲食業を含め、休職・復職を巡るトラブルは年々増えています。
今回紹介する裁判例は、主治医は「復職可能」と診断。
しかし産業医は判断保留、診療情報提供への同意を巡って対立。
結果として「自然退職」扱いとなり、労働者が地位確認を求めて提訴した事案です。
事案の概要
交通事故と長期の就労不能
従業員Xは、平成31年1月24日に交通事故に遭い、翌日から欠勤および年次有給休暇により、長期間就労しない状態が続きました。
うつ病悪化による診断書提出
同年10月10日、Xはうつ病の悪化、1か月の療養が必要とする診断書を会社Y社へ提出します。
「復職可能」とする2通の診断書
11月11日、Xは次の診断書を提出しました。
- 整形外科医
「従前の職務を行える程度に回復。11月12日より復職許可」 - 精神科医
「記憶障害は軽快し、通常の就労に支障なし」
一見すると、「復職に何の問題もない」ように見える内容です。
産業医面談と診療情報提供を巡る対立
産業医は「即復職可」と判断しなかった
11月27日、Xは産業医と面談を行いましたが、主治医の診断書だけでは判断できない。
職場復帰の可否を検討するには、より詳細な診療情報が必要として、主治医からの診療情報提供を求めました。
同意書の文言を巡るトラブル
Xは、診療情報提供同意書の「交通事故で」という文言を削除すれば同意すると主張。
しかしY社は、文言削除には応じられない。
正確な情報提供が必要として、削除要請を拒否しました。
結果として、産業医・会社は診療情報を入手できず、復職可否の判断ができない状態が続きました。
会社の判断|「自然退職」扱い
Y社は、必要な情報提供が得られず、復職の可否を判断できない状況が継続したことから、同年11月30日をもって自然退職として雇用関係終了としました。
これに対しXは、自分は復職可能であり、退職扱いは不当であるとして、地位確認請求訴訟を提起しました。
裁判所の判断|会社側の対応は「適法」
主治医の診断書だけでは足りない
裁判所はまず、次の点を明確に述べています。
主治医は患者の治療を任務とする立場であり、職場の具体的な業務内容や環境には必ずしも通じていない。
つまり、「復職可能」という記載があっても通常の労務提供ができるか、職場で特別な配慮が必要かといった点まで判断されたものとは限らない、としたのです。
産業医が詳細情報を求めたのは相当
産業医が、主治医からの診療情報提供を求めたこと。
それに基づき復職判断をしようとしたことについて、裁判所は「合理的で相当な対応」と評価しました。
労働者にも「協力義務」がある
本判決で非常に重要なのが、次の判断です。
労働者は復職可能であることを立証する立場にあり、同時に、復職判断に必要な情報提供に協力する義務がある。
つまり、診断書を出せば終わり。
会社や産業医の追加確認を拒否という姿勢は、認められないということです。
「文言があっても結果は同じ」は通らない
Xは、「交通事故で」という文言があってもなくても結果は同じだったはずと主張しましたが、裁判所は、それを断定することはできないとして、この主張を退けました。
実務への影響|飲食店経営者が注意すべきポイント
ポイント①
「復職可能」診断書=即復職ではない
特に飲食業では、長時間立ち仕事、繁忙時間帯の集中力、接客対応・対人ストレスなど、業務特性が強く影響します。
ポイント②
産業医の関与は「会社を守る」
産業医を通した判断プロセスは、復職トラブルの予防、不当解雇・不当退職扱いリスクの低減につながります。
ポイント③
情報提供を求めた記録を必ず残す
- 書面での依頼
- 同意書の内容
- 労働者の対応
これらを記録として残すことが、裁判になった際の最大の防御になります。
当事務所からのアドバイス(飲食業特化)
✔ 休職・復職ルールを就業規則に明記
✔ 主治医+産業医の役割分担を明確化
✔ 情報提供拒否時の対応フロー整備
✔ 「自然退職」扱いの要件整理
飲食業は、人手不足×メンタル不調が重なりやすい業界です。
「いざという時に揉めない仕組みづくり」が不可欠です。
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