傷病手当金と退職後の取扱い・有給休暇の関係~飲食店で働くスタッフが安心して休めるために知っておくべきポイント~


飲食業で特に多い「傷病による休業リスク」

飲食業は立ち仕事が多く、腰痛・腱鞘炎・胃腸炎・感染症(インフル・ノロ)など、どうしても体調を崩しやすい業界です。

・人手不足でシフト調整が難しい
・休むと周りに迷惑がかかる
・店長も現場に入っているため代替がいない
・そもそも「傷病手当金」を知らない

こういった理由から、無理をして働き続けるスタッフは少なくありません。

しかし、その結果
➡ 症状が悪化し長期離脱
➡ トラブル(労災か?私傷病か?)
➡ 退職にまで発展

こうしたケースは、実務上よく発生します。

そこで今回は、飲食店スタッフが安心して休めるために、必ず知っておきたい「傷病手当金」と「退職後の注意点」、さらに「有給休暇との関係」を、社会保険労務士の立場から徹底解説します。


傷病手当金とは?

傷病手当金とは、健康保険に加入している人が病気やケガで働けない時、給与の約3分の2が支給される制度です。

●支給されるための主な条件

  1. 業務外の病気やケガであること
  2. 働くことができない状態(労務不能)であること
  3. 給与が支払われていないこと
  4. 連続する3日間の待期期間が完成していること

待期期間は「有給」「欠勤」「休日」など形は問われず、 とにかく3日間連続して働いていない
これでOKです。

有給休暇と傷病手当金の関係

ここは実務で最も誤解が多い部分です。

✖ よくある誤解

「病気で休むときは先に有給を消化しなければいけない」
これは完全に 誤り です。

✔ 正しい理解

有給休暇は本人が希望しない限り取得させてはいけません。

有給休暇を使いたい
 → 使って良い(給与が満額支給)

  • 有給は使いたくない(傷病手当金を使いたい)
     → 有給を強制してはいけない

●有給休暇を取得した日の扱い

・有給休暇を使用した日は給与が出るため、 傷病手当金は支給されません

・ただし「待期期間」にはカウントされるので有給を使った3日間で待期が完成することも可能

これは実務でも非常に重要です。


退職後でも傷病手当金は受け取れるのか?

ここも実務で相談の多いテーマです。

✔ 結論

一定の条件を満たせば、退職後でも傷病手当金を受給し続けることができます。

●退職後も支給されるための条件(超重要)

  1. 退職日までに傷病手当金の「支給要件を満たしている」こと
     → 退職日に働けない状態である
     → 医師の証明がある
     → 待期期間が完成している
  2. 退職日まで1年以上健康保険に加入していたこと

退職日に出社して働いていると「労務不能でない」と判断され、退職後の支給ができなくなることがあります。


退職後に支給される場合の具体例

●ケース1:退職前から休職し続けている場合

退職前にすでに休職しており、医師から「働けない」と診断されている場合は、退職後も継続して支給されます。

●ケース2:退職日が出勤不要の日

シフト制の飲食店でよくあります。

例)
3/30 シフトなし
3/31 退職日(シフトなし)

この場合、3/31に出勤していなくても問題なく受給できます。


退職日直前に有給休暇を入れる場合の注意点

退職前に有給が残っている場合、次のような質問がよくあります。

Q. 退職前に有給休暇を全部使っても傷病手当金はもらえる?

もらえます。

ただし、有給を使った日は給与が支給されるので、 傷病手当金は不支給(ただし待期は進む)

退職日までに労務不能であることさえ確認できればOKです。


飲食店で発生しがちな「傷病手当金の失敗例」

【失敗例①】

退職直前に無理して出勤 → 「労務不能でない」と判断されて退職後の申請ができない

【失敗例②】

会社が有給消化を強制してしまい、傷病手当金の申請が遅れる

【失敗例③】

退職日が出勤扱いになり、受給資格が消失

【失敗例④】

診断書が遅れて「労務不能期間」が証明できない

飲食店はシフト制で管理が複雑なため、申請が漏れることが多いのが実務的な問題点です。


社会保険労務士からのアドバイス(飲食店向け)

●アドバイス①

退職日を「シフト上の出勤日」にしない
→ 傷病手当金の受給トラブルを避けられる

●アドバイス②

有給休暇の使用は必ず本人意思を確認
→ 強制取得はNG

●アドバイス③

診断書は退職日より前に必ず取得
→「退職時点の労務不能」を証明するために必須


当事務所への相談

飲食業は、スタッフの入れ替わりが多く、傷病手当金や有給休暇に関するトラブルは日常的に発生します。

  • 退職前の傷病手当金シミュレーション
  • シフト制特有の退職日/出勤日の扱い相談
  • 有給休暇の適切な消化方法
  • 退職後の継続給付の手続き
  • 飲食店向けの労務管理体制づくり

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