非居住者親族に対する扶養控除・配偶者控除の取り扱い

年末調整や源泉徴収において、海外に住む家族(非居住者親族)を扶養に入れたいという相談が、飲食業の事業主様から非常に多く寄せられます。

特に近年、「 外国籍のスタッフの増加」、「 留学生の増加」、「 海外へ仕送りをしている従業員の増加」により、非居住者に対する扶養控除の取り扱いは、飲食業界で「必ず押さえておくべきテーマ」となりました。

この非居住者扶養の取り扱いは、年末調整の中でも間違いやすく、書類不足による控除否認が非常に多い分野 です。

本記事では、国税庁のリーフレット(令和7年対応)をもとに、飲食業の給与計算・年末調整担当者が最低限おさえるべきポイント を解説します。



非居住者の親族に扶養控除を適用するための基本ルール

結論から言うと、海外に住む親族を扶養に入れるときは「とにかく書類が命」です。

給与担当者が「口頭で言われたので扶養に入れていた」というケースは控除否認の対象になります。


必要書類4種

親族関係書類

親族であることが確認できる書類(戸籍・出生証明・旅券の写し等)

留学ビザ等書類

留学により国内に住所を持たない理由を証する書類(留学ビザ・留学在留カード)

送金関係書類

生活費・教育費を実際に送金した証明(銀行の送金控え、家族カード明細、電子送金記録 等)

38万円送金書類

年間38万円以上送金していることを示す書類(複数送金がある場合の明細書含む)


年齢区分による提出書類の違い

16歳以上 30歳未満 または 70歳以上

親族関係書類+送金関係書類

30歳以上 70歳未満

→ ケースによって必要書類が変わる

①留学により日本に住んでいない場合

→ 親族関係書類 + 留学ビザ等書類 +(年末調整時)送金関係書類

②障害者の場合

→ 親族関係書類 + 送金関係書類

③年間38万円以上の生活費送金ありの場合

→ 親族関係書類 + 38万円送金書類

④上記以外

→ 扶養控除対象外


控除の種類ごとに必要な書類が変わる

扶養控除だけでなく、配偶者控除・配偶者特別控除・特定親族特別控除・障害者控除も対象です。

配偶者控除・配偶者特別控除

→ 親族関係書類 + 送金関係書類(源泉控除対象配偶者のみ適用可)

特定親族特別控除(令和7年開始)

→ 親族関係書類 + 送金関係書類(新制度に注意)

障害者控除

→ 親族関係書類 + 送金関係書類


「親族関係書類」の具体例

● 日本国の公的書類(戸籍の附票など)+親族のパスポート
● 外国政府発行の書類(出生証明書・婚姻証明書など)

※日本語翻訳が必要
※証明に足りない場合は複数書類を組み合わせること


最も誤りが多い「送金関係書類」

実務でトラブルが多いのがここです。

提出できる書類は次の3種類。

銀行の送金控え

最も確実。送金日・金額が明確。

クレジットカード利用明細(家族カード)

・海外の親族が利用
・あなたが立替払
→ 送金として扱われます

電子決済手段(PayPay海外送金など)

電子決済の国外移転記録も有効。


❌ よくある誤り

  • 「友人に託して現金で渡している」
    → 証明できないため 控除不可
  • 「家族へまとめて送金し、その家族が子供に渡している」
    → 個別親族ごとの送金記録が必要
    家族単位での送金は不可
  • 「同居家族の銀行口座に送金しているが誰のためかわからない」
    → 目的が不明確 → 否認リスク

38万円送金書類の注意点

年間38万円以上送金している必要があります。

送金が3回以上の場合

① 最初の送金記録
② 最後の送金記録
③ 合計38万円以上とわかる明細書

でOK(残りの送金控えは本人が保管)

最初+最後で38万円に満たない場合

→ 不足分が確認できる書類の提出が必須


飲食店の現場で起きている「本当に多いトラブル」

飲食業の給与計算で、特に次の失敗が多いです。


❌ トラブル①:従業員本人が必要書類を理解していない

外国籍従業員が「家族に仕送りしているから扶養に入る」と思い込んでいるケースが非常に多い。


❌ トラブル②:送金記録が合わない

・海外送金アプリ
・銀行送金
・クレジットカード
がバラバラになっており、合計額が計算できない。


❌ トラブル③:翻訳文不足

外国語書類の翻訳がなく、年末調整で止まる。


❌ トラブル④:年末調整後に書類を出す

→ 会社では受け付けられない
→ 結果として確定申告へ回る
→ 本人が困る


飲食店経営者・給与担当者がやるべき対策

✔ 年末調整前に「非居住者扶養チェックリスト」を配布

書類不足を防ぐために必須。

✔ 翻訳のルール(日本語訳必須)を徹底

翻訳文がないケースが非常に多い。

✔ 送金記録の保存方法を決めておく

LINE・WhatsAppに保存しているケースが多く紛失しがち。

✔ 年齢区分の判定を正しく行う

特に30歳以上70歳未満の区分は注意。


飲食業専門の社会保険労務士としてのアドバイス

非居住者扶養は、正しく処理すれば節税につながる一方で、誤ると控除否認、税務指摘、従業員トラブルにつながる非常にデリケートな領域です。

飲食業は外国籍スタッフが多いため、会社側で一定の案内体制が必要です。


当事務所へのご相談について

  • 非居住者扶養の書類チェック
  • 従業員向け案内文書の作成
  • 給与計算+労務顧問

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