SNSの誤情報に気を付ける — 正しい労務・税務・社会保険の情報収集



近年、SNSの影響力は飲食業界においても飛躍的に高まりました。
X(旧Twitter)、Instagram、YouTube、TikTok、Facebook、noteなど、多くの媒体で税理士や社労士、行政書士、中小企業診断士、経営コンサルタント、インフルエンサーが情報を発信しています。

一見すると有益で、しかも「専門家が言っている」ため正しいように見えます。
しかし実際には、そのまま信じると飲食店に損害が出る情報が混ざっています。

私の事務所にも、この1〜2年だけで「SNSの情報を信じて手続きした結果、逆にトラブルになった」という相談があります。



なぜ、誤情報が“飲食業界”に被害をもたらしやすいのか?

理由は明確で、以下の4つが重なっているためです。


飲食店は「人が辞めやすい」業種だから情報に敏感

・従業員が不足しやすい
・若い世代が多く、SNSで先に情報を仕入れる
・「アルバイトがネット知識で反論してくる」構造が年々強くなっている

結果として、誤情報が店内トラブルにつながりやすい


法改正が多く、情報がすぐ古くなる

・社会保険適用拡大
・36協定の厳格化
・労働条件明示の強化
・副業兼業ガイドライン
・税制改正(インボイス含む)

「SNSの情報は1年前なら正しかった」というケースが非常に多い。


専門家でも専門外は間違いやすい

・税理士が社会保険を語る
・社労士が税務を語る
・会計士が労働法を語る
・行政書士が給与計算を語る

“資格者=何でも詳しい”と誤解されがち

しかし実務家からすると「専門外の分野は普通に間違える」のが当然です。


誤情報の方が“拡散しやすい”

・刺激的
・短くて簡単
・「儲かる」「得する」など耳に優しい言葉
・本来は複雑な制度を“断定口調で説明する”投稿が伸びやすい

SNSは「正しい情報より、バズる情報が優先される」という構造的問題があります。


以上の理由から、飲食店ほど誤情報に踊らされやすい業界はありません。


専門家でも間違う理由:資格の専門性とSNSの構造


「有名な税理士さんが言っていたから正しい」

「フォロワー10万人の社労士が言っていたから信用できる」


SNSでそういう声をよく耳にします。

しかし、ここに重大な落とし穴があります。


有名=正しいではない

❌ フォロワー数=実務の正確性ではない

❌ 資格者=全分野の専門家ではない


資格にはそれぞれ「担当領域」があります。
ところがSNSでは、その境界が曖昧になり、結果として以下のような誤情報が無数に広がります。


税理士がよく誤る(または専門外なのに断定する)領域

・社会保険手続
・労働保険の年度更新
・36協定
・雇用契約書の内容
・就業規則の法令適合性
・労働者性の判断(業務委託 vs 雇用)
・割増賃金の算定
・労災保険の給付内容

税理士は税務の専門家ですが、労務管理の制度は別体系です。

「税理士が“残業代の正しい計算”を語る動画」をよく見ますが、実務者から見ると明らかに間違っているケースが多々あります。


社労士がよく誤る(または専門外なのに断定する)領域

・法人税に関する判断
・消費税の申告
・インボイス制度
・税務調査の実務
・各種税額控除
・固定資産税
・補助金(税理士領域のもの)

社労士は労務と社会保険の専門家であり、税務は別の体系です。


なぜ専門外情報がSNSで広がってしまうのか?

理由は単純です。


専門外の方がざっくり説明しやすい

本来複雑な制度でも、専門外の人ほど自信満々に簡略化した説明をしてしまう。


専門外のテーマの方がバズりやすい

・労務問題
・給付金
・税金の節約
・社会保険料の下げ方

これらはフォロワーが食いつきやすい。


SNSは「専門性よりエンタメ性」が勝つ

・センセーショナル
・断定的
・短文
・誤解を生む簡略説明

本来の専門家の正確な説明は伸びにくい。


フォロワーが多いほど、「声が大きい」ため真実に見える

大声の間違いは、正しい小声をかき消します。


以上から、資格者でも普通に間違えます。
「資格者だから100%正しい」という前提は捨てるべきです。


飲食店で特に危険な“6つの誤情報ジャンル”

飲食店から相談が多い誤情報は、以下の6つです。


労働時間と残業代の計算ミス

誤情報例:
「固定残業代を払っていれば残業代はゼロでいい」
→ 完全に誤り。固定残業代は“超えた分は別途支払い”。


社会保険の加入条件の誤解

誤情報例:
「アルバイトが嫌がれば社保加入しなくていい」
→ 条件がそろえば義務です。事業主に加入責任がある。


労働者性の判断(雇用 vs 業務委託)

誤情報例:
「Uber配達員と同じだから飲食店のデリバリーも委託でいい」
→ 飲食店のケースは指揮命令系統が明確で雇用と判断されやすい。


給与計算の誤解

誤情報例:
「日給制は残業代が発生しない」
→ 法律で“日給制にも割増義務あり”。


税務に関する誤解

誤情報例:
「飲食店は家事按分をかなり使える」
→ 実務上は税務署の判断が厳しい分野。


助成金の誤情報

誤情報例:
「人を雇ったら100万円もらえる」
→ 要件が厳しく、制度の理解が必須。


誤情報を信じた結果、実際に起きたトラブル事例


外国人アルバイトの社保加入問題で労基署対応へ

SNS投稿:
「外国人は社保加入しないでいい」

→ 実際には、労働時間・雇用契約内容により加入義務あり。

結果:
・遡及加入
・保険料は事業主、労働者折半
・従業員とのトラブルに発展


経営者が「みなし残業=残業代ゼロ」と誤解

結果:
・1年分の未払い残業代
・労基署は100%是正指導
・退職従業員の代理人弁護士から請求書


税理士のSNS投稿を信じて賞与の社会保険料が未納に

投稿:
「賞与は払わなきゃいい。節税になる。」

→ 実際には賞与を払うかどうかは会社の判断だが、払った場合の手続は必須。

結果:
・賞与支払届の未提出
・延滞金
・従業員から苦情


正しい情報を見抜くための「10のチェックリスト」

SNSで情報を見たら、この10項目を確認してください。


① 発信者はその制度の“専門家”か?


② 投稿に「例外」「注意点」が書かれているか?


③ 法律名・条文・省令・通知などの根拠があるか?


④ タイムスタンプは?最近の情報か?


⑤ 他の専門家の意見と一致しているか?


⑥ バズるためのセンセーショナルな言葉が使われていないか?


⑦ 実務経験があるか?(経験年数・業界特化性)


⑧ 「それで本当に行政がOKする?」と考える


⑨ 投稿者が責任を負う立場にあるか?


⑩ 最終的には“自分で確認”する癖をつける


飲食業向け:正しい情報ルートはこれだけでいい

飲食店が労務・税務・社会保険の情報を調べる際、実は次の4つだけで十分です。


① 厚生労働省の公式資料


② 日本年金機構の資料


③ 国税庁(税務)


④ 顧問の社労士・税理士に相談

情報源が多いほど混乱するため、これ以外は“参考程度”にとどめるのがベストです。


当事務所からのアドバイス:飲食店はSNSより「実務」を優先すべき理由

飲食業は、人の出入りが多い、労務トラブルが起きやすい、若い従業員がSNSで先に知識を得る
という構造的課題があります。

だからこそ、専門家として以下を強くお伝えします。


① SNSの情報を前提に制度を運用しないこと


② 自店の“実情”に合わせた運用が大切


③ 給与計算・社会保険・雇用契約は専門家と連携して管理すべき


④ 小さな誤解が「100万円規模の損害」につながる


⑤ 最低でも月1回は専門家に質問し、情報を補正する

どんなに忙しくても、情報を正しく管理することが“経営の安定”に直結します。


飲食店の皆さまへ

当事務所では、「SNSの情報で何が正しくて何が間違っているのか分からない」という飲食店オーナー・店長のために、以下のサポートを提供しています。


✓ SNSで見た情報の正誤確認
✓ 労務・社会保険の制度の“正しい理解”
✓ 給与計算や残業代のチェック
✓ 業務委託か雇用かの判断
✓ 労基署対応の方針確認


顧問サポート内容

① 労務相談
② 給与計算・社会保険手続の完全代行
③ 36協定・就業規則の整備
④ 労働時間管理のアドバイス
⑤ 行政調査の立会いと改善提案
⑥ 多店舗展開に合わせた労務設計 など


飲食店を守るのは“正しい情報”です】

SNSの情報は便利ですが、「誤情報が店を壊す」ケースを私は数多く見てきました。

飲食店の皆さまには、正しい情報で安心して経営できる環境を手にしていただきたいと思っています。


・SNSで見た情報が正しいか不安
・従業員とのトラブルが増えている
・社会保険の手続が合っているか確認したい
・給与計算を丸投げしたい
・多店舗展開前に労務管理を整えたい

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