スポットワーク直前キャンセルと賃金支払い命令|飲食店が知るべき法的リスク
近年、飲食業界で急速に広がっている「スポットワーク(単発バイト・スキマバイト)」。
人手不足が深刻な飲食店にとって、「急な欠員対応ができる」、「採用コストを抑えられる」、「繁忙日にだけ人を確保できる」といったメリットがあり、タイミーなどのスポットワークサービスを利用している飲食店も増えています。
しかし一方で、「忙しくなかったからキャンセルした」 「雨で客足が読めず、直前で不要になった」といった企業都合の直前キャンセルが、重大な労務トラブルへ発展するケースが出始めています。
2025年12月、ついに飲食業界にとって見過ごせない動きが相次ぎました。
- 飲食店によるスポットワーク直前キャンセルに対し、賃金支払いを命じる司法判断
- 大手物流会社を相手にした集団訴訟の原告募集
本記事では、「実際の裁判内容と何が問題とされたのか」、「スポットワークは雇用契約なのか」、「直前キャンセルはどこまで許されるのか」飲食店が負う法的リスク今すぐ取るべき実務対応と予防策を、飲食業専門の社会保険労務士の立場から、わかりやすく・詳しく解説します。
目次
【ニュース解説】スポットワーク直前キャンセルで賃金支払い命令
東京簡裁が飲食店に約7,000円の支払いを命令
2025年12月9日、朝日新聞が次のように報じました。
スポットワークでの企業による直前キャンセルをめぐり、大学生が雇い主の飲食店運営会社に賃金の支払いを求めた訴訟の判決が9日、東京簡裁であった。 飲食店側は出廷せず、争わなかったことから、裁判官は同社に請求通り約7千円の支払いを命じた。 直前キャンセルに関する訴訟で判決が出たのは初めてとみられる。
金額だけを見ると「7,000円程度」と思われるかもしれません。
しかし、この判決が持つ意味は極めて大きいものです。
なぜこの判決が重要なのか
この裁判のポイントは、「スポットワークであっても、労働契約は成立する」、「企業都合で一方的にキャンセルした場合、賃金支払い義務が生じる」という考え方が、司法の場で初めて明確に示された点にあります。
これまで多くの事業者は、「スポットワークは業務委託のようなもの」 「キャンセルしても問題ない」と誤解して運用してきました。
しかし今回の判決は、そうした認識に明確な警鐘を鳴らしています。
スポットワークは「雇用契約」なのか?
原則として「雇用契約」です
タイミーなどのスポットワークサービスを利用する際、「アプリ上で仕事に応募」、「企業が承認」、「勤務条件(日時・場所・賃金)が確定」という流れになります。
この時点で、法律上は労働契約が成立していると考えられます。
労働契約成立の3要素
労働契約が成立するかどうかは、以下の要素で判断されます。
- 労務の提供があるか
- 賃金の支払いがあるか
- 指揮命令下で働くか
飲食店のスポットワークは、「店舗での接客・調理補助」、「店長や社員の指示に従って働く」、「時給が明確に決まっている」という点から、典型的な労働契約に該当します。
「単発」「短時間」「アプリ経由」であっても、 雇用であることに変わりはありません。
直前キャンセルはなぜ問題になるのか
使用者都合の休業=休業手当の問題
労働契約が成立した後、「店舗側の判断」、「客足減少」、「予約キャンセル」などを理由に、一方的に勤務を取り消す行為は、法律上「使用者都合による休業」と評価される可能性があります。
労働基準法26条(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は、休業期間中、平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
つまり、出勤予定で予定を空けていた労働者に対して、 最低でも60%の賃金補償が必要になる可能性があるのです。
今回の裁判では、「店舗側が出廷せず反論しなかった」、「労働者側の主張がそのまま認められた」という事情もありますが、「直前キャンセル=賃金不払いOK」という考えが通用しないことが、はっきり示されました。
集団訴訟に発展|大手物流会社6社が対象
原告募集にまで発展した背景
さらに深刻なのが、2025年12月17日に労働新聞が報じた内容です。
スポットワークの企業都合によるキャンセルが集団訴訟の原告募集に発展。 タイミーを利用した大手物流会社6社を相手取ったもの。 仮に請求が認められれば、巨額の賃金債務発生につながる。
これは、「個別トラブル」、「少額請求」というレベルを超え、 ビジネスモデル全体のリスクとして表面化してきたことを意味します。
飲食店にも同じリスクがある
「物流業界の話でしょ?」と思われるかもしれませんが、 飲食店も全く同じ構造です。
「複数店舗で同様のキャンセル運用」、「同じアプリを使った雇用形態」があれば、「少額だから大丈夫」とは言えません。
集団訴訟になれば、「未払い賃金」、「休業手当」、「遅延損害金」が一気に請求される可能性もあります。
飲食店が直面する具体的リスク
未払い賃金・休業手当の請求
1回あたりは数千円でも、複数回、複数人、複数店舗となれば、金額は膨らみます。
労基署からの是正指導
スポットワーカーも「労働者」です。
賃金不払い、契約条件不明確があれば、労基署の調査対象になります。
SNS・口コミによる信用低下
学生や若年層が多いスポットワークでは、X(旧Twitter)、Instagramなどでの拡散リスクも高く、 採用難に直結します。
どうすればいいのか?
「直前キャンセル前提」の運用をやめる
まず重要なのは、「忙しくなかったらキャンセルすればいい」という発想を捨てることです。
人件費は「変動費」ではありますが、 契約成立後はコントロールできない費用になります。
キャンセル規定を確認・整備する
スポットワークサービスの利用規約だけに頼らず、「何時間前までならキャンセル可能か」、「キャンセル時の補償」を社内で明確にしましょう。
余裕を持った人員配置に切り替える
繁忙予測、過去データを活用し、 「ギリギリ配置」からの脱却が重要です。
正社員・パートとのバランスを見直す
スポットワークは便利ですが、教育コスト、労務リスクも含めた「総コスト」で考える必要があります。
当事務所からのメッセージ
スポットワークは、 使い方を間違えなければ有効な人材確保手段です。
しかし、「法律理解が不十分」、「運用ルールが曖昧」なまま利用すると、 思わぬ賃金トラブル・訴訟リスクを招きます。
「うちは大丈夫だろうか?」そう感じた今が、見直しのタイミングです。
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初回相談はオンライン・無料対応しています。


