仕事中に風邪をひいたら労災は認められるか?
飲食店では、 「冷暖房の効いた客席」、「高温多湿になりがちな厨房 」、「長時間の立ち仕事 」、「繁忙期の連勤」、「人手不足」といった環境要因が重なり、スタッフが体調を崩しやすい業種です。
その中で、経営者・店長の方から、次の質問です。
「仕事中に風邪をひいたと言われたが、これって労災になりますか?」という質問を受けることがあります。
結論だけを言えば、 通常の風邪は原則として労災になりません。
しかし、 対応を誤るとトラブルに発展する 、例外的に労災と判断されるケースもありうるという点を知らずにいると、後々大きな問題になることがあります。
目次
労災保険の基礎知識(飲食店経営者向け)
労災保険とは
労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が 業務中、通勤中に負傷・疾病・障害・死亡した場合に補償を行う国の制度です。
対象になる労働者
飲食店で特に重要なのは、次の点です。
・正社員
・パート
・アルバイト
・学生アルバイト
・外国人スタッフ
これらはすべて、原則として労災保険の対象です。
「アルバイトだから労災は使えない」、「試用期間中だから対象外」こうした認識は、すべて誤りです。
労災認定の2つの要件
労災と認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。
・業務遂行性
・業務起因性
業務遂行性とは
事業主の指揮命令下にある状態で起きたか、という点です。
シフトに入っている時間、休憩中でも管理下にある場合などが該当します。
業務起因性とは
そのケガ・病気が「業務が原因で発生した」と言えるかどうかです。
ケガ(転倒、火傷、切創)は比較的判断しやすい一方、 病気の場合はこの業務起因性の判断が非常に厳しくなります。
なぜ『風邪』は原則として労災にならないのか
結論として、一般的な風邪は労災に該当しません。
その理由は以下の通りです。
日常的に誰でもかかる疾病である
風邪は、年齢・職業を問わず、日常生活で誰でもかかり得る疾病です。
感染経路の特定が困難
職場で感染したのか、家庭や通勤途中で感染したのかを明確に区別することができません。
業務との相当因果関係が認めにくい
労災では「業務との相当因果関係」が必要ですが、 通常の風邪ではこれを立証することが難しいのです。
例外的に労災が認められる可能性があるケース
すべてのケースで一律に否定されるわけではありません。
以下のような場合には、労災と判断される可能性があります。
ケース① 明らかに業務が原因の感染
・感染症患者への継続的な対応業務 、業務上、感染源が明確な場合
ケース② 異常な就労環境
・極端な低温環境での長時間勤務、防寒措置が一切取られていない状態
ケース③ 単なる風邪ではなく重篤な疾病
・過重労働による免疫低下 → 肺炎 、長時間労働による体調悪化
判例・行政通達から見る『風邪・感染症と労災』
ここでは、実務上よく引用される考え方を、判例・行政通達ベースで解説します。
※飲食店経営者の方にも理解しやすいよう、要点をかみ砕いて説明します。
判例 業務と疾病の因果関係が争われた事例(一般論)
裁判例では一貫して、疾病については「業務がなければ、その疾病は発症しなかったといえるか」という点が厳しく判断されています。
特に、 風邪、インフルエンザ、感染症全般については、『日常生活上でも発症し得る疾病であり、業務との相当因果関係の立証が必要』とされています。
つまり、 単に「仕事中に体調を崩した」だけでは足りない、「 業務の特殊性」、「過重性が必要」という考え方が、判例上も確立しています。
行政通達①業務上疾病の基本的な考え方
厚生労働省の行政解釈では、業務上疾病について次のように整理されています。
・当該疾病が業務に内在する危険によって生じたこと
・業務以外の原因によるものではないこと
このため、通常の風邪については、『業務に内在する危険が原因とは言い難い』として、原則として業務外と判断されます。
行政通達② 過重労働と疾病の関係
一方で、「長時間労働 」、「連続勤務」、「著しい疲労の蓄積」が確認され、 医学的にも因果関係が説明できる場合には、「業務による免疫力低下 → 重篤な疾病発症」として、業務上と判断される余地があることも示されています。
この点は、人手不足になりがちな飲食業では特に注意が必要といえるでしょう。
飲食店で多い相談事例
事例① 厨房の寒暖差で体調を崩したケース
繁忙期、厨房とホールを行き来する業務を連日担当。 数日後に高熱を出し、スタッフから「労災では?」と相談。
→ 通常の風邪症状であり、業務起因性は否定。 ただし、労務管理上の配慮不足は指摘。
事例② 人手不足による連勤後の肺炎
2週間以上休みなしで勤務。 風邪をきっかけに肺炎を発症し入院。
→ 医師の意見書により、業務過重性が認められ、労災認定。
事例③ アルバイトが労災申請を希望
店側は「労災は使えない」と説明。
→ 申請妨害に該当する可能性あり。指導対象。
Q&Aでわかる実務対応
Q1:スタッフが『労災で出したい』と言ったら?
A1:頭ごなしに否定せず、事実関係を整理しましょう。
Q2:事業主が労災を出さない判断はできる?
A2:できません。申請権は労働者本人にあります。
Q3:労災になると保険料は上がる?
A3:原則、個別の労災で即上がるわけではありません。
Q4:診断書は必ず必要?
A4:疾病の場合はほぼ医師の証明が必須です。
Q5:労基署に相談すると不利になる?
A5:適切な相談はマイナスにはなりません。
飲食店経営者が今すぐできる対策
・体調不良時に休める体制
・無理な連勤をさせないシフト管理
・冷暖房・防寒対策の見直し
・就業規則への労災対応明記
『風邪=労災にならない』と決めつけるのは危険です。
判断を誤ると、 「労基署トラブル」、「スタッフとの信頼関係悪化」、「SNS等での炎上」につながる可能性もあります。
飲食業の労務は、業界特有の事情を理解した専門家への相談が重要です。
・これは労災に該当する?
・スタッフへの説明方法がわからない
・就業規則を見直したい
こうしたお悩みがありましたら、 飲食業専門の社会保険労務士がサポートいたします。
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