ホール・厨房・清掃・仕込み…“複業務スタッフ”が多い飲食店の労働時間管理術



飲食店では、一人のスタッフがホール接客、厨房の補助、清掃、仕込みなど、複数の業務を掛け持ちするケースが珍しくありません。
特に小規模店舗では「人手不足を補うために、全員がマルチプレイヤー化している」ことも多いでしょう。

しかし、この“複業務体制”、便利な反面、労働時間の把握や残業管理が非常に曖昧になりやすいという大きな課題があります。
「何時から何時まで、どの業務をしていたのか」「休憩は取れていたのか」「残業になっていないか」、こうした管理を怠ると、労働基準監督署からの是正指導未払い残業代トラブルにつながることも。

この記事では、複数ポジションを兼務する“複業務スタッフ”が多い店舗での労働時間の見える化と管理の工夫を、実務の観点から詳しく解説します。


複業務スタッフの現状とリスク

■ 現場で起きがちな課題

  • 「仕込み→ホール→片付け」と自然に流れて残業扱いにならない
  • 「厨房→清掃」で休憩を取り忘れる
  • タイムカード上はシフトどおりでも、実際には延長勤務
  • 店長が“総時間”しか見ておらず、業務区分が不明確

これらはすべて、「業務ごとの時間が見えない」ことが原因です。
結果として、**正確な労働時間把握義務(労基法第108条)**を満たしていない状態になり得ます。

■ 法的リスク

  • 未払い残業代請求
  • 休憩未取得による是正勧告
  • 「名ばかり管理職」扱いでの監督署調査
  • シフト表や打刻データ不整合による証拠不備

労働時間の“見える化”がカギ】

■ 見える化の目的

  • 「誰が」「いつ」「何を」していたかを明確化
  • 各業務の所要時間を把握し、人員配置の改善に活かす
  • 残業・休憩時間の管理を容易にする

■ ポジション別タイムログの導入

Excelや勤怠システムに「業務コード」欄を追加し、打刻時に選択できるようにします。
例)

  • H=ホール
  • K=キッチン
  • S=仕込み
  • C=清掃

これにより、同じ勤務時間内でもどの業務をしていたかが見えるようになります。

■ シフト表に「兼務欄」を設ける

「誰がどの時間帯にどのポジションを担当するか」を一目でわかる形にします。
→ 例:Aさん=11:00〜14:00 ホール、14:00〜16:00 仕込み

■ 打刻機能付きシフトアプリの活用

飲食店で人気の「Airシフト」「Touch On Time」などには、業務区分・休憩自動管理機能を備えたものもあります。
これらを使うことで、人手が足りない中でも簡単に時間管理が可能です。


シフト設計のポイント

■ 1人あたりの“実働時間ライン”を明確に

複数業務を跨ぐと、本人も「どこまでが残業か分からない」状態になります。
→ 業務の切り替えタイミングで、いったん“区切り”を明示することが重要です。

■ 休憩を“業務の谷間”に確実に設定

「仕込みが終わったらそのままホールに」ではなく、「仕込み後に必ず15分以上の休憩を入れる」とルール化しましょう。
このルールは就業規則にも反映しておくべきです。

■ 日報・業務記録のフォーマット化

現場リーダーが「今日どの業務にどれだけ時間を使ったか」を日報に簡潔に記録。
データを蓄積することで、業務配分の見直しや人員最適化ができます。


“兼務スタッフ”の配置整理メリット

■ 業務効率の向上

誰がどの時間帯にどの業務を担うかが明確になることで、無駄な待機・人手不足・タスク重複が減ります。

■ 公平な評価につながる

「厨房もできる」「清掃も率先してやる」スタッフを、“なんとなく”ではなく数値で評価できるようになります。

■ 残業削減・離職防止効果

業務の可視化により、負担が偏らないシフト作成が可能。
「毎回自分だけ残っている」といった不満を防ぎます。


システム導入 or 手作業、どちらがよい?

  • 小規模店舗(~10名規模):Excel+打刻アプリの併用
  • 中規模以上(20名~):勤怠管理システム導入+クラウド連携

補助金(IT導入補助金など)を活用すれば、導入費用の負担も抑えられます。


社労士がサポートできること

  • 労働時間の把握方法の見直し
  • 勤怠システム導入時の設定支援
  • シフト運用ルールの整備
  • 就業規則の兼務・休憩条項の改定

現場での実態を踏まえたうえで、「使えるルール」に落とし込むことが社労士の役割です。


【まとめ】

複数の業務を兼ねる“複業務スタッフ”体制は、飲食店の現場にとって欠かせない働き方です。
しかし、便利さの裏にある「時間管理の落とし穴」を放置すると、労務トラブルにつながります。

まずは「見える化」から。
誰が、いつ、どの業務をしているかを整理し、無理なく・漏れなく管理できる仕組みを整えましょう。


【当事務所からのアドバイス】

飲食店の現場では、時間管理のルールを「現場で守れる形」にすることが何より大切です。
“理想の管理”ではなく、“実際に続く管理”。
当事務所では、以下をサポートしています。

  • シフトと勤怠を一元化する運用設計
  • 兼務スタッフ向けの労働時間ルール策定
  • 就業規則・勤怠システムの調整

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