雇用契約書/労働条件通知書の“飲食店特有の記載”すべきポイント~飲食店のトラブルを防ぐための実務チェックリスト~


なぜ「飲食業」こそ契約書の内容が重要なのか

飲食業では、アルバイト・パートを中心に雇用形態が多様で、シフト制や繁忙期変動、深夜勤務など、他業種に比べて「働き方の変則性」が高いのが特徴です。
そのため、雇用契約書や労働条件通知書の内容を明確にしておかないと、後から「言った・言わない」のトラブルが起きやすくなります。

特に最近は、労働基準監督署の指導や、未払い残業・契約違反の労働相談が増加しており、“飲食業ならではのリスク”を踏まえた契約内容の整備が不可欠です。


雇用契約書と労働条件通知書の違い

最低限「労働条件通知書」は必須であり、「雇用契約書」を作成するのが望ましい形です。
特に飲食店では、アルバイト・短期雇用でも必ず交付が必要です。

書類名法的義務署名・押印電子交付
雇用契約書双方の合意を証明する書面署名・押印が望ましい
労働条件通知書労基法第15条により「使用者の交付義務」不要だが控えを渡す

飲食店特有の「記載すべき項目」チェックリスト

飲食業の労働条件通知書は、一般企業とは異なり次の項目を重点的に明記する必要があります。

① 就業場所(雇入れ直後・変更の範囲)

例文:

就業場所:〇〇店(東京都渋谷区〇〇)
雇入れ直後は上記店舗とする。
変更の範囲:会社の定める他店舗、または新規出店店舗への異動を命ずることがある。

飲食店では店舗間の応援・異動が頻繁に発生するため、「雇入れ直後」および「変更の範囲」を必ず明示します。
これを省略すると、異動命令を出した際に「契約違反だ」と主張されるリスクがあります。


② 業務の内容(雇入れ直後・変更の範囲)

例文:

雇入れ直後:ホール業務、接客、清掃等
変更の範囲:厨房補助、レジ業務、仕込み、開店・閉店作業、その他店舗運営に関わる付随業務

飲食業では「ホールも厨房も兼務」が一般的です。
しかし、契約書上で「接客のみ」と記載してしまうと、厨房に入ってもらうことが職務変更=契約違反になりかねません。
業務内容には包括的な表現を用いておくことが安全です。


③ 労働時間・シフト制・深夜勤務

  • 所定労働時間(例:1日8時間、週40時間以内)
  • 変形労働時間制を採用する場合は、就業規則への根拠も明記
  • 深夜勤務がある場合は、「22時~翌5時」勤務の可能性を記載

特に、22時以降営業の飲食店では「深夜割増対象勤務がある旨」を必ず書きましょう。
また、固定シフト制でなく「毎週シフト確定」方式の場合は、

「勤務日は毎週店舗責任者が作成するシフト表によって指定する」と明記することで柔軟運用が可能になります。


④ 休日・休暇

飲食業は週休制や交代制が主流のため、

「休日はシフト表により指定する」と記載しておくのが一般的です。
また、法定休日と公休日の違いも管理側で整理しておきましょう。


⑤ 試用期間

試用期間:2か月(延長・短縮あり)
本採用後も過去の勤務実績を考慮し、労働条件を見直すことがある。

飲食業は採用後すぐ辞めるケースが多いため、試用期間中の評価・延長条件を具体的に書くことが重要です。


⑥ 賃金(固定・歩合・深夜手当・インセンティブ)

  • 時給・月給・深夜割増(25%)・休日割増(35%)
  • チップやインセンティブの取り扱い
  • 交通費支給範囲(上限の有無)

「残業は固定残業」とする場合は特に注意。
明確な時間数と計算根拠がないと無効になります。


⑦ 契約期間・更新の有無

特に短期・季節雇用では、

契約期間:2025年4月1日〜2025年9月30日
更新の有無:あり(業務成績・店舗状況による)
といった具体的記載を。
更新時には「同意書」を交わすことが望ましいです。


⑧ 副業・兼業

近年は飲食スタッフのダブルワーク化が進んでいます。

「副業を行う場合は事前申告・承認を要する」
と書いておけば、他店での過重労働や労災リスクを回避できます。


トラブル事例から学ぶ「記載漏れ」の怖さ

  • 事例①:異動拒否で出勤拒否
     →「就業場所変更の範囲」を記載していなかったため、解雇無効と判断された。
  • 事例②:深夜手当の未払い
     →「22時以降勤務の可能性」記載なし。シフト表も曖昧。結果、未払い請求。
  • 事例③:厨房への配置転換で紛争化
     →「業務内容変更の範囲」未記載。ホール専任の契約と主張され、会社側敗訴。

書面の一文が、労務トラブルの防波堤になります。


書面交付の形態と電子化対応

2024年以降、LINEやクラウドでの電子交付も認められています。
ただし、「労働者が内容を保存・印刷できる状態」が条件。
PDF送付・クラウド共有など、証拠が残る形を推奨します。


社労士からのアドバイス

契約書は“トラブルが起きてから”では遅い。
「今いるスタッフ」と「これから雇うスタッフ」全員を再点検しましょう。

  • 店舗ごとに就業場所・業務範囲の実態を洗い出す
  • アルバイトにも雇入れ直後・変更範囲を必ず明示
  • 雇用契約書は年1回見直す(繁忙期・営業形態の変化に合わせる)

まとめ

飲食店の雇用契約書・労働条件通知書は「形式的」ではなく、
店舗運営に即した実務文書として運用することが重要です。

✅ シフト制・変形労働制
✅ 深夜勤務・繁忙閑散差
✅ 複業務スタッフ・兼業
✅ 店舗異動・業務変更

これらの項目を正確に反映させることで、トラブル防止と労務リスク低減につながります。


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