休職トラブルを避けるため休職制度の誤解・リスク・実務対応


なぜ飲食業で「休職トラブル」が急増しているのか?

飲食業では、スタッフの業務内容が身体的・精神的に負荷が高い一方、店舗運営のためには「人が抜けると回らない」という構造的課題があります。
そのため、以下のような相談が急増しています。

  • 「休職に入ると言われたが、会社として何をすべきかわからない」
  • 「診断書を出されて復帰時期が未定。いつまで雇用を続けるべき?」
  • 「復職したいと言われたが、本当に働けるのかわからず不安…」
  • 「休職明けのシフトが合わないと言われ、トラブルになった」
  • 「就業規則に休職制度がなかった」
  • 「退職と休職の線引きが分からない」

これは、“休職制度”が法律に明確な規定がないため、会社ごとにルールが違う → 誤解が生まれる → トラブルに発展するという構造が原因です。

本記事では、飲食業専門の社会保険労務士として、これまで多数のトラブル解決に関わってきた経験から、休職制度の基本・危険ポイント・リスク回避策・実務対応、そして飲食業ならではの対策を徹底解説します。


休職とは何か?法律上の「定義がない」点が最大のトラブル要因

飲食業の経営者から最も多い誤解が「休職は法律で決まっている制度」というものです。

休職は“会社がルールとして定めているだけ”の制度

  • 労働基準法
  • 労働契約法
  • 健康保険法
  • 労災保険法

どの法律にも「休職を設けなければならない」という規定はありません。

つまり休職制度は“会社の就業規則で定める自主的な制度”であり、企業ごとに中身が違います。

▼法律で決まっていないため、以下のトラブルが多発

  • 休職期間が曖昧
  • 取得条件が曖昧
  • 復職判定の基準がない
  • シフトに入れないのに復職と主張される
  • 労災か私傷病かで扱いが変わる
  • そもそも就業規則に休職がない
  • 診断書を出されたから絶対に休職できると思われている

これらはすべて休職制度の自社ルールの不備が原因です。


休職をめぐる典型的な“飲食店の労務トラブル”

以下は飲食業で多発する典型ケースです。

ケース1:いきなりLINEで「明日から休職します」

→ 就業規則のルールを周知していない店で多発
→ 勤務不能かの判断が必要にも関わらず、場当たり対応になりがち

ケース2:診断書「1か月休業を要する」を盾に、勤務不能ではないのに休職を希望

→ 医師の診断書は万能ではない
→ 「会社としての勤務可能性の判断」が必要
→ 診断書だけで休職の可否が決まるわけではない

ケース3:休職中にアルバイトしていた

→ 休職の前提が崩れる
→ 休職制度悪用による解雇リスクにも発展

ケース4:復職したいと言われたが、シフトに入れない

→ 飲食店は“復職=すぐフル出勤”が難しい
→ 慣らし勤務の仕組みがないとトラブルに

ケース5:休職期間満了後の自然退職ができない

→ 就業規則に記載がないため退職扱いにできない
→ 失業手当のトラブルにも発展


法律で決まっていないからこそ重要な“就業規則の休職規定”

休職トラブルのほぼ9割は、就業規則の休職規定が甘い・存在しないことが原因です。

休職規定に定めるべき内容は以下。


「休職制度で必須の6項目」

休職の事由(病気・ケガ・私傷病か、労災か)

明確にすることで不正利用を防ぐ。

休職開始の手続き(診断書提出、会社の判断など)

→ 「診断書=必ず休職できる」ではないことを明記。

休職期間の上限(例:正社員は6か月〜1年)

→ 飲食店は人員不足のため長期化が致命的。休職中の賃金(一般的に無給)

→ ただし健康保険の傷病手当金の案内が重要。

復職時の手続き・判定基準

→ ここが曖昧だと必ずもめる
→ 復職後のシフト・配置転換も規定に入れるべき

休職期間満了時の自然退職

→「期間満了=自動退職」が書いていなければ退職にできない


診断書は万能ではない:「医師の意見」と「会社の判断」は別物

飲食店の現場でよく起きる誤解。


医師の診断書は“労務提供可能性の判断”ではない

医師は「病気の治療」という立場から判断するため、

  • 労働内容
  • シフト構造
  • 廃棄・発注・責任業務
  • ランチと夜のピーク
  • 一人厨房やワンオペ
  • 重量物の運搬

これら“現場の具体的業務”を考慮していません。

つまり、会社がしなければならないのは、「うちの店の業務を、この状態で安全に行えるか」を判断すること。

医師の診断書=会社の義務ではありません。


復職判定のポイント:飲食業はここを絶対に押さえるべき

復職判断で最も重要なことは「安全配慮義務」です。
無理に復職させてケガ・事故・悪化が生じた場合、会社が責任を問われる可能性があります。


飲食店の復職ルールで定めるべきポイント

月単位の“慣らし勤務”を設ける

いきなり通常シフトに入れると事故が発生しやすく危険。

業務内容の調整ルール

  • 重い鍋・寸胴の扱い
  • ランチのピーク対応
  • ワンオペ回避
  • 夜間勤務の制限
    など。

配置転換も含めて検討できるようにする

店舗によって業務負荷が大きく異なるため柔軟なルールが必要。

主治医意見+産業医意見+会社判断の3点セット

※産業医がいない小規模飲食店でも、外部医師の意見書取得を推奨。


休職期間中の会社の義務・対応

休職中は「無給=何もしなくていい」わけではありません。

会社が実施すべき内容は以下。


定期的な状況確認(労務不能の継続確認)

月1回を基本に記録に残す。

傷病手当金の案内・協力

飲食業では経済的理由で早期復帰を申し出るケースが多いため重要。

復職に向けた調整

  • 勤務可能時期の確認
  • 当面の勤務内容の整理
  • 店舗責任者への共有

休職期間満了前の“通知”

休職満了前に「期間満了後は自然退職となること」を必ず書面で通知。


退職との違い:「休職」と「辞めます」は全く違う

以下の誤解が多く、トラブルの火種になります。


休職とは

労務不能を理由に「治療のため働けないが雇用が続く」状態

退職とは

労働契約を終了させるもの


よくある誤解

  • 「1か月休むから休職です」→ ❌
  • 「辞めたいけど、失業手当のために休職扱いで」→ ❌
  • 「診断書があるから休職にしろ」→ ❌

休職は、“労務提供ができない=労働契約上の義務を果たせない”ために、会社が特例として与える制度。

会社の判断が不可欠です。


飲食業特有の休職トラブルを防ぐための“最適ルール”

飲食業は他業種と比べて休職リスクが高いため、当事務所では次のようなルール整備を推奨しています。


飲食店に最適な休職規定(モデル)

  1. 休職開始には会社判断が必要
  2. 最長3か月〜1年
  3. 復職は段階的に行う(慣らし勤務必須)
  4. 配置転換・軽作業を許容
  5. 主治医意見+会社判断で最終決定
  6. 期間満了は自然退職
  7. 復職後3か月は評価期間

当事務所のアドバイス:飲食店の休職トラブルは「制度設計」でほぼ防げる

飲食店の労務トラブルには以下の特徴があります。

  • 現場の負担が大きく、無理な復帰をさせがち
  • 一方で人手不足で休職者を手厚くケアできない
  • 店長が労務判断をしてしまいトラブルになる
  • 就業規則が古いまま
  • 休職制度を知らないアルバイト・社員が多い

そのため、「ルールを整える+現場に共有する」ことでほぼトラブルを防ぐことができます。


当事務所へご相談いただく場合

当事務所では、飲食店向けに以下を対応しています。


休職規定の整備・作成

飲食業に特化したモデル規定を店舗用にカスタマイズ。

休職者対応の実務サポート

  • 診断書対応
  • 復職判定
  • 自然退職の手続き
  • 労災・私傷病の判断
  • 店長への指示文作成

店舗スタッフ向け説明資料の作成

教育・周知不足による誤解を防ぐための資料を提供。

店舗運営に合わせた“復職ルール”設計

安全配慮義務を踏まえた負担の少ない復職プランを設計。


まとめ

休職制度は法律ではなく「会社が決めるもの」です。

飲食業特有の労働環境・シフト構造を理解したうえで、店舗に合った休職規定を作らなければ、必ずトラブルが起きます。

「診断書が出たから休職させる」
「復職したいと言われたから復職させる」
といった場当たり対応は危険です。

休職トラブルは、制度設計でほぼ100%防げます。


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