労基法における「賠償予定の禁止」とは?

「アルバイトがすぐ辞めたら違約金を取れる?」「制服を汚したら弁償させてもいい?」「急に辞められて損害が出たら請求できる?」

飲食店経営者の方から、多く寄せられる質問のひとつが、この「賠償予定」に関するものです。

人手不足が続く飲食業界では、「せっかく育てたスタッフが突然辞める」、「高価な厨房機器や制服を雑に扱われる」、「研修コストだけが残る」といった悩みが尽きません。

しかし、その不満や不安から 「違約金」「罰金」「損害賠償額をあらかじめ決める」 といったルールを設けてしまうと、 労働基準法違反となる可能性があります。


労基法16条「賠償予定の禁止」とは

条文

労働基準法第16条
使用者は、労働契約の不履行について、違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

一見すると難しい条文ですが、ポイントは非常にシンプルです。

「辞めたらいくら」「ミスしたらいくら」など、 あらかじめ金額を決めて労働者に請求することは禁止」というルールです。

「賠償予定」とは何か

賠償予定とは、実際にどれくらい損害が出たかに関係なく、あらかじめ一定額を請求することをいいます。

  • 「1年以内に辞めたら10万円支払う」
  • 「無断欠勤1回につき3万円」
  • 「研修費として退職時に5万円徴収」

これらはすべて、賠償予定に該当し、原則として違法です。


なぜ「賠償予定」が禁止されているのか

労働者の足止めを防ぐため

もし、「辞めると高額な違約金」、「ミスすると多額の罰金」が課されるとしたらどうでしょうか。

労働者は、「体調が悪くても辞められない」、「ハラスメントがあっても我慢する」、「不当な扱いを受けても声を上げられない」という状況に追い込まれてしまいます。

これを防ぐため、労基法では 「金銭による退職の抑制」 を厳しく禁止しているのです。

使用者の立場が強くなりすぎるため

飲食店では、「店舗責任者」、「オーナー」、「本部」と、使用者側が圧倒的に強い立場にあります。

そこで金銭的ペナルティまで許してしまうと、 労働契約が対等な関係ではなくなってしまうため、 賠償予定は禁止されています。


飲食店でよくある「違反例」

ここからは、実際に飲食店でよく見られるNG例を具体的に見ていきましょう。

早期退職違約金

「3か月以内に辞めたら10万円」

これは典型的な労基法16条違反です。

  • 正社員
  • アルバイト
  • パート

雇用形態に関係なく すべて違法 となります。


研修費・教育費の請求

「研修にお金がかかっているから、途中退職の場合は返金」

この考え方も危険です。

研修は 会社が業務として行うもの であり、 原則として労働者に負担させることはできません。

※例外的に認められるケースもありますが、 飲食店の通常研修ではほぼ該当しません。


制服・備品の弁償を一律請求

「制服を汚したら一律5,000円」

これも賠償予定に該当します。

  • 実際の損害額
  • 故意か過失か

を問わず定額請求する点が問題です。


ミス・クレームへの罰金

「レジミス1回につき1万円」

これも完全にNGです。

業務上のミスは、使用者が負うべき経営リスクと考えられています。


「損害賠償」そのものがすべて禁止されるわけではない

ここで重要な誤解を解いておきましょう。

実損害の賠償請求は可能

労基法が禁止しているのは、「あらかじめ金額を決めること」であって、「実際に重大な損害が発生」、「故意または重過失がある」場合の 実損害賠償請求 まで全面的に否定しているわけではありません。

ただし、立証のハードルが高い、全額請求は認められにくいという点には注意が必要です。


違反した場合のリスク

労基署からの是正指導

労働基準監督署の調査で発覚すると、「是正勧告」、「指導票」が出される可能性があります。

刑事罰の可能性

労基法16条違反は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が定められています。

SNS・口コミによる リスク

最近では、「ブラックバイト」、「違約金を取られた」といった情報が、SNSや口コミサイトで一気に拡散されます。

採用への悪影響は計り知れません。


飲食店が取るべき正しい対応策

就業規則・雇用契約書の見直し

違約金、罰金、定額弁償といった文言が入っていないか、必ず確認しましょう。

ルールではなく「運用」で防ぐ

丁寧な教育、マニュアル整備、定期的な面談が、結果的に離職防止につながります。

本当に困ったときは専門家へ相談

自己判断でルールを作ることが、 最大のリスクです。


飲食業専門社労士からのアドバイス

飲食店経営は、人、時間、お金すべてに余裕がない中で行われます。

だからこそ、「気持ちはわかるが、やってはいけないこと」を正しく知ることが重要です。

賠償予定の禁止は、スタッフを守るため、経営者自身を守るためのルールでもあります。


当事務所へのご相談について

当事務所では、飲食業専門として、就業規則の作成・見直し、労基署対応、スタッフトラブルの事前防止を多数サポートしてきました。

「これって違法?」 「今の契約書、大丈夫?」そんな段階でのご相談こそ、歓迎しています。

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