労働基準監督署(労基署)の調査
労働基準監督署(労基署)の調査には主に3種類の調査があります。
- 定期監督
- 申告監督
- 災害時監督
ここでは主に定期監督について書いていきます。
目次
定期監督
定期監督は、労働基準監督署(労基署)が任意に抽出し、調査することを言います。
都道府県労働局から届く「労働条件自主点検表」などから違反がありそうな会社や労働基準監督署へ月80時間の36協定を届け出ている会社や、飲食業やIT業など長時間労働が疑われる会社等に対して、重点的に調査が行われることが多いです。
申告監督
申告監督とは、労働者が労働基準監督署(労基署)の「総合労働相談コーナー」等に相談などで、法令違反の疑いがあると労働基準監督官が調査の必要と判断した場合は、会社に立ち入り調査を行い、事実関係の確認を行います。法令違反がある場合は、是正を図るよう指導します。
不当解雇や残業代の未払いなど実際に法令違反が疑われる資料等が労働基準監督署に持ち込まれるため、労働基準監督署(労基署)も定期監督より労力をかけて調査を行います。
災害時監督
災害時監督とは、労働災害によって労働者が死亡したり大けがした場合に行われる調査です。
会社が提出した「労働者死傷病報告」等をもとに、法令違反が疑われる企業を選定して実施します。
労災の発生状況や原因究明、法令違反の有無について調査し、再発防止のための指示や指導を行います。
調査の対象と頻度
定期調査は、企業ごとに調査を受けるのではなく、事業場ごとになります。
たとえば、飲食店で複数の店舗がある場合、別々の事業所となります。
また、調査の頻度はまったく当たらない事業場もあれば、4、5年に1度あたる事業場もあります。
なお、定期監督の調査対象となりやすい企業の例として、以下が挙げられます。
- 月80時間を超える時間外・休日労働が疑われる企業
- 各都道府県労働局の行政運営方針でその年に重点的に調査を行うと決められた業種
- 毎年労基署に届け出が必要な書類(36協定、裁量労働制の協定など)が提出されていない企業
- 労働者から告発があった企業
- 離職率が高い企業
- 過労死など重大な労災があった企業
- 建設業や製造業
- 規模が多い企業
調査は予告なしに突然やってくる?
定期監督の場合は、労働基準監督署(労基署)から事前に「労働時間等に関する調査の実施について」などの文書で通知されることがほとんどですが、まれに事前予告なしで訪問することもあります。
申告監督の場合は、事前予告することで調査を妨げると判断された場合は、事前予告なしで訪問することもあるようです。
事前に通知があった場合は、対象になる事業所、調査日時、調査内容を確認にしてください。
例えば、帳簿など書類の準備が必要な場合は、日時を変更することも常識の範囲内であれば応じてもらえます。
調査は拒否できる?
正当な理由もなく立ち入り調査を拒否した場合や、労働基準監督署(労基署)からの呼び出しを無視した場合、罰則を受けるおそれがあります。
おり労働基準監督署(労基署)の労働基準監督官には、司法警察官として捜査・逮捕・差押え・検証・送検を行うことが認められており強い権限があります。
事業場や寄宿舎などに臨検(調査)して帳簿や書類の提出を求める権限や、使用者・労働者を尋問する権限が与えられているため、拒否することはできません。
主な調査内容
定期調査の場合、適切に書類が届出、作成されているか、長時間労働がないか、未払い賃金や最低賃金を下回っていないかなどを中心調査されます。
具体的には以下の書類を調査時に求められることが多いです。
- 就業規則
- 労働者名簿
- 労働条件通知書または雇用契約書
- タイムカード等労働時間が把握できる書類
- 賃金台帳
- 36協定(時間外労働・休日労働協定)届
- 有給管理簿
- 変形労働時間を採用している場合は関係書類
- 長時間労働者に対する医師による面接指導関係書類
- 健康診断個人票
調査を受ける前に
調査を受ける前に事前の準備をしっかりして受けることは大切です。
事前準備なしで、調査を受けた結果、たくさんの是正勧告を受けたという話はよく聞きます。
社内に労働法に詳しい人がいない場合、社会保険労務士に立ち会いを依頼することをお勧めします。
是正勧告を受けた後、依頼を受け、労働基準監督署へ企業の担当者と同行することがありますが、「監督官の対応が前回と違う」と言われることが多いからです。
その場にいないので憶測でしかありませんが、専門家が同行する場合、監督官と対等な立場で折衝しますので対応が違うのかもしれません。
書類の準備
調査に必要な書類が、不足している場合、可能な限り書類を作成してください。
特に届出が必要な就業規則や36協定届が届け出ていない場合は、調査当日に持参することをお勧めします。
調査で確認されそうな事項を事前にチェックし、対応できることは事前に済ませておきます。
- タイムカードと賃金台帳に矛盾がないか
- 残業手当などの未払い賃金がないか
- 深夜手当は支払われているか
- 最低賃金を下回っていないかなど
調査当日
調査は労働基準監督官(労基署)から書類を元にヒヤリングを受けながら、内容の確認が行われます。
事前に調査票を記入する場合もありますが、以下のことが質問されることが多いです。
- 業種
- 企業全体の労働者の人数
- 調査対象の事業所の正社員、パートの男女別人数、外国人の有無
- 始業、終業時刻
- 休日
まれに労働基準監督官に喧嘩腰になる方がいますが、そのような行動は心証を悪くするだけでデメリットしかありませんので、控えることが賢明です。
また、正社員の残業手当が支払われていないような企業に多いのですが、タイムカードの管理がずさんで、未払い賃金が莫大な金額になるケースがあります。
こういった場合は、調査後に労働時間を意識してタイムカードを打刻し、その労働時間をベースに未払い賃金を計算してよいかなど労働基準監督官に交渉することも重要です。
是正勧告、指導
調査は指摘なしで終わることはほとんどありません。
一般的な指摘事項がないと、さらに細かく調査をして、何かしらの指摘をされます。
調査により法令違反が認められた場合、違反事項と是正期限を定めた「是正勧告書」が交付されます。
また、法令違反はないが改善すべき点が認められた場合、改善を求める「指導票」が交付されます。
これらの書面の交付を受けた場合には、「是正(改善)報告書」を提出します。
報告書の提出を怠った場合や、労働基準監督署が是正の状況を確認する必要があると判断した場合には、再監督が行われることがあるため注意しましょう。