残業代の一部不払いで書類送検~千葉労基署送検事案から~

2025年12月18日、労働新聞が報じた以下のニュースが、固定残業代制度を採用する企業に警鐘を鳴らしています。

残業代の一部不払いで送検 “手当”支給も不足 千葉労基署
臨床検査業の㈱昭和メディカルサイエンスと総務課責任者が、労働者11人に対する残業代の一部不払いにより、労働基準法第37条違反の疑いで書類送検された。

本件は、「固定残業代として毎月10万~15万円の手当を払っていた」にもかかわらず、書類送検に至ったという点で、飲食店経営者の皆さまにとっても決して他人事ではありません。


事件の概要

送検された内容

  • 対象労働者:11人
  • 違反内容:時間外労働に対する割増賃金の一部不払い
  • 違反条文:労働基準法第37条
  • 送検日:令和7年11月24日
  • 送検先:千葉地検

会社の主張・実態

  • 「特別手当」などの名目で1人あたり月10万~15万円を支給
  • 会社としては固定残業代(みなし残業代)のつもり
  • しかし実際の残業時間が多く、法定割増額を下回っていた

👉 結果
「払っているつもり」でも、違法は違法として、書類送検に至りました。


なぜ「手当を払っていても」違法になるのか

ここが、最も重要なポイントです。

固定残業代=払えばOK、ではない

多くの経営者が、次のように誤解しています。

  • 手当を払っている
  • 残業代込みの給与にしている
  • 従業員も納得している

👉 だから問題ないはず

しかし、法律はそう考えていません。


固定残業代が有効とされるための絶対条件

固定残業代が「適法」と判断されるためには、厳格な要件があります。

✅ 必須条件①

基本給と残業代相当額が明確に区分されていること

  • 給与明細・雇用契約書・賃金規程で区分
    • 基本給:いくら
    • 固定残業代:いくら(何時間分)が明確に記載されているか

👉「特別手当」「調整手当」「職務手当」などあいまいな名称だけではNGになることも。


✅ 必須条件②

固定残業代が、法定割増賃金以上であること

  • 残業時間 × 割増率 × 基礎賃金= 本来支払うべき残業代

👉
これを下回った時点でアウト

今回の事案は、まさにここです。


✅ 必須条件③

超過分は別途支払っていること

  • 固定残業時間を超えた分
  • 深夜・休日労働分

👉1分でも超えたら、追加支払いが必要


「区分判断には踏み込まず」の意味とは?

今回、労基署は「労使双方の認識から割増賃金と判断した」としています。

  • 手当の名称がどうであれ
  • 固定残業代として合意があった

👉「区分が曖昧でも、残業代扱いはする」

それでも「不足」していれば違法

  • 払っているつもり
  • 認識が一致している

これは、免罪符にはなりません


基本給が最低賃金未満だった点にも要注意

本件では、さらに重大な問題がありました。

基本給が最低賃金未満

飲食業でも、よくある落とし穴です。

よくある構造

  • 基本給:低め
  • 各種手当:多め
  • 合計額は最低賃金を超えている

👉しかし、最低賃金は「基本給+一部手当」に限られます

残業代に該当する手当は、最低賃金の計算に含められません。


飲食業で特に多い「危険な固定残業代」

❌ こんな設計は要注意

  • 固定残業代の時間数が明記されていない
  • 実態として毎月超過している
  • 深夜・休日分を一律にしている
  • 基本給が極端に低い

👉労基署から見れば「狙われやすい」構造です。


書類送検されると、何が起きるのか

会社への影響

  • 企業名の公表
  • 採用への悪影響
  • 金融機関・取引先の信用低下

代表者・管理職への影響

  • 刑事責任
  • 再発防止報告の義務
  • 是正勧告・指導の常態化

👉「知らなかった」では済みません


当事務所からのアドバイス

固定残業代は「制度」ではなく「設計」です

✔ 雇用契約書
✔ 就業規則
✔ 賃金規程
✔ 実際の勤怠

すべてが噛み合って初めて合法


今すぐチェックすべきポイント

  • 固定残業代、何時間分か説明できますか?
  • 超過分、払っていますか?
  • 深夜割増、別計算していますか?
  • 基本給、最低賃金を下回っていませんか?

固定残業代の見直し・廃止も選択肢です

  • 実態に合わないなら
  • 管理できないなら

👉「やめる」という判断も、立派な経営判断

飲食業は、人手不足・長時間労働になりやすい業界です。
だからこそ、制度倒れは命取りになります。


  • 固定残業代の適法診断
  • 賃金体系の再設計
  • 労基署対応・是正勧告対応

👉 「うちは大丈夫か?」と思った今が、見直し時です

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