正社員で手取り17万円の給与は最低賃金を下回る? 飲食業の“給与額と最低賃金”の正しい確認方法



「手取り17万円」の落とし穴 〜最低賃金とのズレ〜

▶ なぜ今、最低賃金の確認が重要なのか?

2025年10月現在、東京都の最低賃金は 時給1,226円
全国的にも過去最高水準に達し、飲食業にとって「人件費圧力」は過去にないほど高まっています。

実際に、求人広告などで「月給22万円〜」「正社員登用あり」などと記載していても、実際に支給している金額が最低賃金を下回っているケースが少なくありません。

とくに「手取り」ベースで考えてしまうと、経営者側も従業員側も“違反に気づかない”まま放置してしまうリスクがあります。


▶ 「手取り17万円」の給与を分解してみる

たとえば以下の条件を想定します。

項目内容
勤務地東京都
雇用形態正社員(週40時間勤務)
最低賃金1,226円
月平均労働時間173時間
総支給額1,226円 × 173時間 = 212,098円
手取り額175,850円
控除36,248円
健康保険:10,901円/厚生年金:20,130円/雇用保険:1,167円/所得税:4,050円

※控除額には「住民税」は考慮していません

最低賃金の確認は「手取り」ではなく「総支給額」で行う必要があります。


▶ 「手取り」と「総支給額」の違い

  • 手取り額:社会保険料や税金を引いた後の金額
  • 総支給額(額面給与):会社が支払う給与総額(控除前)

最低賃金法は「手取り」ではなく、「労働の対価として支払われる総支給額」で判断します。
そのため、「手取り17万円」でも総支給額が212,098円以上あれば、最低賃金違反ではありません
しかし、逆に「手取り17万円=総支給17万円」と誤認して支払っている場合、違反となる可能性が高いのです。


最低賃金の計算方法を正しく理解しよう

▶ 月給者の最低賃金チェック方法

最低賃金は基本的に「時給」で定められていますが、正社員など月給制の場合は次の計算式で判断します。

月給 ÷ 1か月の平均所定労働時間 = 時給換算額

例えば、月給が200,000円、所定労働時間が173時間の場合:

200,000 ÷ 173 = 1,156円

この場合、東京都の最低賃金1,226円を下回るため、最低賃金法違反となります。


▶ 手取り18万円の給与を再計算してみる

上記の前提で手取り18万円・総支給212,098円の場合を確認してみましょう。

212,098 ÷ 173 = 1,226円

最低賃金ギリギリのラインです。
ただし、次の点に注意が必要です。


▶ 含めてはいけない手当・含められる手当

最低賃金の算定には、「含められる賃金」「含められない賃金」があります。

含められる含められない
基本給通勤手当
職務手当・技能手当固定残業手当
住宅手当時間外手当、深夜割増手当
別居手当家族手当
賞与

そのため、もし月給21万円の中に「通勤手当1万円」などが含まれていれば、実際に最低賃金計算に含められるのは 約20万円未満 となり、結果的に違反になるケースもあります。


▶ 固定残業手当の落とし穴

固定残業手当(みなし残業)を導入している飲食店も多いですが、
この場合も最低賃金の計算は「固定残業手当を除いた基本給部分」で確認します。

たとえば、

  • 月給22万円(うち固定残業手当4万円含む)
  • 所定労働時間173時間の場合
(22万円 − 4万円)÷ 173 = 約1,042円

この場合、基本給部分が最低賃金を下回るため、違法となります
「固定残業手当を払っているから大丈夫」ではない点に注意しましょう。


違反が発覚したときのリスクと対応策

▶ 最低賃金違反が発覚するとどうなる?

最低賃金法第4条では、違反が確認された場合、差額の支払い義務が生じます。
さらに悪質な場合は「50万円以下の罰金」が科されることもあります。

飲食店では、アルバイト・正社員問わず、「最低賃金の引き上げに気づかず、そのまま旧給与で支給」しているケースが少なくありません。
特に10月に改定されるため、年末調整時に遡及して発覚することもあります。


▶ 違反リスクを減らす3つのポイント

  1. 年1回の賃金シミュレーションを行う
     → 最低賃金改定時(毎年10月)に、時給換算額を再チェック。
  2. 「通勤手当」等を含めずに計算する
     → 含めて計算すると誤差が出やすく、違反リスクが上がります。
  3. 固定残業代の内訳を明確にする
     → 就業規則や給与明細に「基本給」「固定残業代」を明示しましょう。

▶ 社員とのトラブルを未然に防ぐには

SNS上では「最低賃金を下回っていた」「給与が少ない」などの投稿が拡散されやすく、企業の信用に直結します。
もし従業員が労働基準監督署に申告した場合、過去3年分の未払い賃金を請求される可能性もあります。

経営者ができる最大の対策は、「定期的な給与・手当の見直しと就業規則の整備」です。



最低賃金引き上げの背景と飲食業への影響

▶ なぜ最低賃金は毎年上がり続けているのか?

最低賃金は、政府が「地域別最低賃金審議会」の意見をもとに毎年改定します。
背景には、以下のような国の方針があります。

  1. 労働力人口の減少
     → 人手不足対策として「賃金水準の底上げ」が必要。
  2. 物価上昇への対応
     → 物価上昇に伴い、実質賃金を維持するための改定。
  3. 国際的な賃金格差の是正
     → OECD諸国と比較して日本の賃金水準が低いため、段階的な引き上げを実施。

▶ 東京都の最低賃金推移(過去10年)

年度東京都最低賃金前年比上昇額
2015年907円+18円
2016年932円+25円
2017年958円+26円
2018年985円+27円
2019年1,013円+28円
2020年1,013円据え置き(コロナ影響)
2021年1,041円+28円
2022年1,072円+31円
2023年1,113円+41円
2024年1,226円+113円(過去最大)

10年間で約319円(35%)の上昇となっています。
このペースで上昇が続けば、2027年には東京都で時給1,300円超えが現実的です。


▶ 飲食業にとっての“見えないコスト増”

最低賃金が上がると、単純に時給だけでなく社会保険料・賞与・残業代も連動して上昇します。
これにより、以下のようなコスト圧力が発生します。

  • 人件費総額の増加
  • 利益率の低下(原材料費高騰とのダブルパンチ)
  • アルバイトのシフト削減による回転率低下
  • 正社員の長時間労働化

さらに、最低賃金改定直後には「アルバイトの時給見直し」が話題になりやすく、求人競争も激化します。
結果的に、給与設計の見直しを怠ると人材が流出するリスクも高まります。


▶ 「人件費=コスト」から「投資」へ

今後は「人件費=コスト」ではなく、
“人材投資”としての賃金設計が求められます。

特に飲食業は、「離職率の高さ」「教育コスト」「採用コスト」が課題。
最低賃金を意識した給与体系を整えることで、以下が実現し、結果的に利益改善につながることも多いです。

・定着率の改善
・スタッフの安心感
・店舗運営の安定化


実務での確認ポイントと当事務所からのアドバイス

▶ 経営者がやるべき“最低賃金チェックリスト”

  1. 給与明細の構成を確認
     → 基本給・手当・固定残業代を明確に区分していますか?
  2. 通勤手当等を除外して計算
     → 最低賃金算定対象外になっていませんか?
  3. 月給を時給に換算してみる
     → 月給 ÷ 平均所定労働時間 = 時給換算額
  4. 引き上げ前後の差額を把握
     → 時給差×月平均労働時間=月コスト上昇額
  5. 従業員への説明準備
     → 「なぜ給与が上がらないのか」「どう計算されるのか」を丁寧に説明。

▶ よくある質問(FAQ)

Q1:手取り18万円でも違反になることはありますか?
→ 総支給額が21万円前後あり、最低賃金1,226円を下回っていなければ違反ではありません。
 ただし「通勤手当」などを含めている場合は要注意です。

Q2:固定残業代込みで最低賃金をクリアしていればOK?
→ NGです。最低賃金はあくまで“基本給部分”で判断します。

Q3:給与を上げる余裕がない場合は?
→ 業務効率化・補助金活用(業務改善助成金など)を検討しましょう。


▶ 当事務所からのアドバイス

飲食業の現場では、「人件費管理」と「法令遵守」は常にトレードオフです。
しかし、最低賃金違反は企業の信用を大きく損なうリスクがあります。

まずは次の3ステップをおすすめします。

  1. 自社の給与明細を再確認
  2. 最低賃金シミュレーションを行う
  3. 就業規則・給与規程を改定

これらを専門家がサポートすることで、無駄なリスクを減らし、スタッフにも安心して働ける環境を提供できます。


▶ 当事務所のサポート内容

当事務所では、飲食業専門の労務顧問として以下のサポートを行っています。

  • 最低賃金改定時の給与チェック・修正提案
  • 固定残業代制度の設計・明示ルール整備
  • 就業規則・賃金規程の見直し
  • 助成金活用による賃上げ支援
  • 労基署対策・トラブル未然防止相談

🟧まとめ:手取りではなく「総支給額」で判断を

チェック項目内容
最低賃金の基準「手取り」ではなく「総支給額」で判断
東京都の最低賃金1,226円(2025年10月現在)
月給21万円でギリギリライン173時間勤務で約1,225円換算
固定残業代は除外基本給で判定
違反リスク差額支払+50万円以下の罰金
対策賃金シミュレーション・規程見直し

✅ 飲食店経営者の皆様へ
「この給与で大丈夫かな?」と感じたときが見直しのチャンスです。
法違反を未然に防ぐことが、従業員の信頼と店舗の安定につながります。
今すぐ、自社の給与を“時給換算”で確認してみましょう。


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