住友不動産ベルサール事件(東京地裁令和5年12月14日判決)~降格は有効でも「基本給減額」は無効~
飲食店の現場では、店長・料理長から一般職へ戻す、所長・責任者から営業・現場職へ配置換えといった降格・職務変更が日常的に発生します。
その際、よくある相談が次の一言です。
「役職を外したんだから、基本給も下げていいですよね?」
この問いに対し、明確にNOを突きつけたのが、住友不動産ベルサール事件(東京地裁令和5年12月14日判決)です。
本判決は、降格自体は有効
しかし「基本給の減額」は無効という、実務に極めて重要な判断を示しました。
目次
事件の概要
労働者の地位と処遇
原告Xは、被告Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、平成27年6月に所長へ昇格、職級は所長3級。
会社が行った降格・処遇変更
Y社は平成30年10月、Xに対し、所長職を解任、職務を営業職へ変更、職級を営業職1級へ変更という降格処分を実施しました。
賃金の変更内容
降格に伴い、月例賃金は以下のとおり変更されました。
降格前
- 月額41万7,000円
(本俸27万1,000円+ポスト手当14万6,000円)
降格後
- 月額37万5,000円
(本俸20万9,000円+営業手当16万6,000円)
👉 本俸(基本給)が約6万円減額されています。
就業規則・賃金規程の問題点
Y社の就業規則には、次のような定めしかありませんでした。
- 能力・実績・勤怠等を参酌し、昇給または降給することがある
- 業務内容の変更に伴い、会社が相当でないと判断した場合、昇給または降給することがある
しかし、賃金テーブルは周知されていない、どの事由で、いくら下がるのかが一切不明という状態でした。
労働者の主張
Xは、次の点を主張しました。
- 降格および賃金減額は無効
- 基本給を一方的に下げる法的根拠がない
- 差額賃金の支払いを求める
裁判所の判断
降格・ポスト手当の減額 → 有効
裁判所は、職務内容の変更、役職手当(ポスト手当)の減額については、会社の人事権の範囲内として有効と判断しました。
👉 役職に紐づく手当は、役職がなくなれば減っても問題ない
これは実務でも非常に重要なポイントです。
本俸(基本給)の減額 → 無効
一方で、裁判所は基本給の減額について、次のように明確に述べました。
賃金は労働者にとって最も重要な労働条件の一つであり、使用者が合意なく一方的に変更するためには、労働契約または就業規則上の明確な根拠が必要である。
さらに、減額事由、事由に対応する具体的な減額幅が、あらかじめ明示されていなければならないとしました。
なぜ会社は負けたのか
裁判所が問題視したのは、次の点です。
❌ 抽象的な規定しかない
「能力・実績を参酌する」という文言だけでは、どの程度悪ければ、いくら下がるのかが全く分かりません。
❌ 賃金テーブルが就業規則ではない
- 就業規則に組み込まれていない
- 周知もされていない
賃金テーブルは、法的根拠にならないと判断されました。
飲食業に与える影響
飲食業では、店長 → 一般社員、料理長 → 調理スタッフ、SV → 店舗勤務といった降格が非常に多く発生します。
このとき、「役職が変わったから基本給も下げる」という運用をしていると、今回の判決と同じリスクを抱えることになります。
実務で絶対に押さえるべき3つのポイント
基本給と手当を明確に分ける
- 基本給:原則下げにくい
- 役職手当・職務手当:役職と連動
この設計が不可欠です。
賃金減額の「条件」と「幅」を明記する
就業規則・賃金規程には、どのような場合に、どの範囲で減額するのかを具体的に書く必要があります。
賃金テーブルは必ず「周知」する
- 就業規則に組み込む
- 社内で閲覧可能にする
これを怠ると、存在しないのと同じ扱いになります。
当事務所からのアドバイス
飲食業は、人事異動が多い、現場判断で処遇を変えがちという業界特性があります。
だからこそ、就業規則、賃金規程、役職・職務設計を最初に整えておくことが、最大のリスク対策です。
- 降格時の給与、どう扱うべき?
- 店長手当・役職手当の設計が不安
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