売上低迷を理由に給与未払い!~ミュゼプラチナム社長の発言を労働基準法の視点から~

企業の経営状態が悪化すると、従業員への給与支払いに影響が出るケースもあります。
しかし、どのような事情があっても「労働契約」に基づいて正当な給与が支払われるのは労働者の基本的権利です。
本記事では、ミュゼプラチナム社長が「給料は売上からしか払われない」と発言した背景を踏まえ、労働基準法の基本原則と給与未払いが違法とされる理由について解説します。


社長発言の背景とその問題点

社長は、「皆さんにも、僕にも少なからず、ミュゼプラチナム全体で売上が上がらなかった原因があるんじゃないですか?給料って、公務員じゃないので、売上からしか給料って払われないです。そこが何かミュゼの方々(従業員)は理解できてない」という発言をしています。
この発言には以下のような問題点が含まれています。

  • 責任転嫁
    発言中、経営不振の原因を全員に転嫁するニュアンスが見受けられます。
    経営状態は当然、経営陣の判断に大きく依存するものであり、従業員全員で原因を共有するという考え方には疑問が残ります。

    かつて自主廃業した山一証券の社長が、会見で「社員は悪くありませんから」と涙で訴えたこととの違いを思い出しました。
  • 労基法の給与支払いについての知識の欠如
    「売上からしか給料って払われない」という主張は、企業の売上が直接給与支払いの根拠になるという誤解を招く表現です。
    実際には、労働契約や企業の経営資源(自己資金、借入金、その他資金調達手段)に基づいて給与が支払われるべきものであり、売上だけで判断できるものではありません。

労働基準法が定める給与支払いの原則

労働基準法は、労働者の権利を保護するための基本法規です。以下の点が重要です。

  • 労働契約に基づく支払い義務
    労働基準法は、労働契約が成立した時点で約束された労働の対価としての給与支払いを、企業に義務付けています。
    たとえ業績が悪化しても、労働者に対してその労働の対価を支払う義務は免除されません。
  • 定期払いの原則
    給与の支払いは一定の期間ごとに行われることが規定されています。
    売上の波によって給与支払いが左右される状態は、労働者の生活の安定を著しく脅かすものとなり、労働基準法の趣旨に反する可能性があります。

給与未払いが労働基準法違反となる理由

給与は労働者がその労働の成果に対して受け取るべき正当な対価です。
売上が不十分であるという理由で、既に発生している労働の対価を支払わないことは、労働基準法に定められた「賃金の全額払い」原則に反します。

  • 全額払いの原則
    給与の支払いは、給与の全額から控除することを禁止する規定です。
    ただし、所得税の源泉徴収など、法令に別段の定めがある場合又は労使の自主的な協定がある場合には一部控除することが認められています。
    したがって、その月に支払う給与を分割払いで支払うこともできません。
    報道によると、給与の一部が支払われその後、差額が支払われたこともあったようですので、全額払いの原則に反することになります。
  • 労働契約の履行義務の重視
    企業が業績悪化を理由に給与をカットすることは、労働契約上の約定に反するだけでなく、労働者の生活に直結する重大な問題です。
    労働契約上、雇用者は合意された条件に沿って労働者に対して給与を支払う義務があり、これを怠ると法的責任が問われます。
  • 社会的信頼の低下
    給与未払いは、企業の社会的信用を大きく損なう行為です。公正な労働慣行の維持は、企業経営において必須の要素であり、その信頼が損なわれれば労働市場全体にも悪影響が及びます。

社員への影響と今後の対策

給与未払い問題は、従業員にとって経済的な不安を招くだけでなく、心理的なストレスも増大させます。以下のような対策が考えられます。

  • 法的相談と労働基準監督署への通報
    給与未払いが発生した場合、従業員は速やかに地域の労働基準監督署に相談することが推奨されます。
    必要に応じて、弁護士など専門家のアドバイスを仰ぐことも重要です。
  • 内部通報制度の活用
    本件では給与の支払いの連絡先が不明な時もあったようですので、難しいかもしれませんが、企業内に内部通報制度がある場合、問題の早期解決に向けた情報共有が行われる可能性があります。
    従業員同士が協力し、状況を正確に把握・記録することが肝要です。

まとめ

ミュゼプラチナム社長の発言は、企業の業績悪化を理由に給与支払いの正当性を主張するものでありますが、労働基準法の観点からは許されない論理です。
労働者は、自らの労働の対価としての給与を受け取る権利があります。
企業がどのような状況にあっても、正当な給与の支払いを拒むことは労働法に反するため、今回の事例は今後も注視すべき問題です。
従業員の皆様は、必要に応じて労働基準監督署や専門家に相談し、権利保護に努めることが大切です。