就業規則の変更で“意見聴取なし”は送検リスクに~36協定も無効とされた実例に学ぶ、飲食業の労使手続きトラブル防止法~

今回の送検事例から見える「労使手続き」の落とし穴

2025年10月、茨城県つくば市の学校法人が「就業規則変更の際に過半数代表者を指名で選び、意見聴取を行わなかった」として、労働基準法第90条違反の疑いで送検されました。
同法人は36協定も同じ方法で締結しており、土浦労基署はこれも「無効」と判断。
有効な36協定がない状態で時間外労働を行わせていたとして、法人と理事長が労基法第32条(労働時間)違反でも立件されています。

一見「書類手続きのミス」に見えるかもしれませんが、労働基準法上は非常に重い違反です。
飲食業の現場でも、似た構造のトラブルは珍しくありません。

✅ 店長が「労働者代表」に署名しているけれど、スタッフに説明していない
✅ 就業規則を更新したが、誰の意見も聞いていない
✅ 36協定の存在は知っているが、実際に労使協議をしていない

こうした状態は、「労働者代表の民主的選出」という大前提を欠いており、最悪の場合は36協定が無効→全残業が違法労働扱いになるおそれもあります。


「過半数代表者」の正しい選び方とは?

就業規則変更や36協定の締結には、従業員の過半数代表者の選出が必要です。
しかし「店長が勝手に選んだ」「オーナーが名前を書いた」では法的に無効です。

▶ 過半数代表者の要件(労基法施行規則第6条の2)

  1. 管理監督者ではないこと(店長・マネージャーは、経営に関与していなければ原則OK)
  2. 従業員の過半数による選出であること(指名・推薦・暗黙了解はNG)
  3. 誰でも立候補・投票できること(透明性のある手続き)

この「民主的な選出手続き」が行われていない場合、「無効」とされるリスクがあります。
・就業規則変更の意見聴取
・36協定の締結

▶ 飲食業で多い誤り例

誤ったケース問題点
オーナーが指名して店長を代表にする指名はNG
店長が気の合うスタッフに署名を依頼民主的手続きが欠如
誰も知らないうちに代表が決まっていた意見聴取手続きが無効

36協定も「代表の選び方」で無効になる理由

36協定(時間外・休日労働協定)は、労働基準法第36条に基づき、労働者代表との書面協定+労基署届出があって初めて、残業や休日出勤が合法になります。

しかし今回の事例では、「代表の選出が適法でなかった」ため、労基署は36協定を無効と判断しました。
つまり「協定そのものが存在しない状態」と扱われ、残業をさせればすべて違法労働(刑事罰の対象)です。


飲食業が注意すべき「就業規則変更手続き」のポイント

就業規則を変更する際は、労基法第90条に基づく手続きが必須です。

▶ 正しい手続きの流れ

  1. 改定案を作成(社労士がサポート可)
  2. 労働者代表への説明・意見聴取
  3. 意見書を添付して労基署に届出
  4. 店舗スタッフへの周知(掲示・配布)

▶ NG例(実際によくある)

  • 代表に意見を求めず、社労士がそのまま提出
  • 意見書が白紙・日付なし
  • 変更内容をスタッフに説明していない

これらはすべて違法リスクを伴い、就業規則そのものが無効となる可能性があります。


小規模店舗こそ“形だけ”になりやすい労使協議

飲食業では「オーナー=現場責任者」という構造の店舗が多く、どうしても労使協議が“形だけ”で済まされがちです。

「みんな了解してるから大丈夫」
「店長がサインしてるし問題ない」

こうした慣習が積み重なると、今回の送検事例と同じリスクを抱えることになります。

▶ 特にリスクが高いケース

  • 店舗ごとに数名しかいない(過半数の把握が曖昧)
  • アルバイト中心(代表選出をしていない)
  • 就業規則を10年以上更新していない

飲食業の場合、複数店舗間で就業規則を統一している場合も注意が必要です。
代表の選出や意見聴取は、「事業場(店舗)」ごとに必要です。
1店舗だけ代表を決めて全店共通で届出しても無効です。


飲食店が取るべき具体的な対応と社労士からの提言

▶ 過半数代表の選出を「文書化」する

  • 選出方法(投票・立候補など)を記録
  • 立候補案内・結果報告書を保存
  • 任期を明示(通常1~2年)

▶ 就業規則変更時は「説明会+意見書」セットで対応

  • 改定理由と内容を説明
  • 代表の意見書を添付
  • 配布・掲示で周知

▶ 36協定は毎年「選出+届出」を更新

  • 代表が変わったら再選出
  • 新しい協定書を作成して労基署に届出
  • 有効期限が切れていないか(自動更新はなく有効期限は最長1年)

▶ 書類提出は社労士にダブルチェックを依頼

行政手続きは「形だけ」でも受理されますが、中身が法令に沿っていなければ、後に是正勧告・送検リスクがあります。


まとめ:就業規則・36協定は“実体”がなければ意味がない

今回の送検は「形式だけ整えても、中身が伴わなければ違法」という明確なメッセージです。
飲食店では少人数ゆえに「労使協議を省略しがち」ですが、それが一番危険です。

✅ 就業規則・36協定は、書類よりも“手続きの中身”が重要
✅ 民主的な代表選出・意見聴取を怠ると無効扱い
✅ 違法残業・送検リスクを防ぐには、社労士の定期チェックが必須


🍊当事務所からのアドバイス

当事務所では、飲食業専門として以下のサポートを行っています。

  • 適正な過半数代表の選出支援
  • 就業規則変更・36協定更新の代行
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